2022年、2023年と2年続けてIndependent Tokyoで審査員特別賞を受賞した新埜康平。
街中で見かけるイメージを伝統的な日本画の技法で描き出す作品群は、画面の余白が等身大の風景に爽やかな空気感を纏わせます。身近な美しさに焦点を当てる新埜が影響を受けたのは90年代のストリートカルチャーです。
カネコタカナオ、中島友太との3人展「synchronicity」に向け、新埜の制作の背景にあるものを探ります。
新埜康平 Kohei Arano
【展示】
2023年 個展 [Kohei Arano Solo Exhibition] 渋谷パルコ 3LFTNapartment
2023年 個展 [ミックステープ] Gallery TK2
2024年 個展 [Silver Street] SAN BANCHO GALLERY
2024年 [scene4-Poems and Thoughts] JILL D’ART GALLERY
2024年 [tagboat Art Fair 2024] 都立産業貿易センター
2024年 [Bunkamura Gallery Selection2024] Bunkamura Gallery
【受賞】
2020年 第16回 世界絵画大賞展 サムトレーディング賞(協賛社賞) 受賞
2021年 第39回 上野の森美術館大賞展 入選
2021年 第17回 世界絵画大賞展 ミューズ賞(協賛社賞) 受賞
2021年 第56回 神奈川県美術展 入選
2021年 3331 ART FAIR コレクター・プライズ 授与
2022年 Independent Tokyo 2022 審査員特別賞(大和克巳 賞)受賞
2022年 第1回 Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞) 入選
2023年 Independent Tokyo 2023審査員特別賞(小山登美夫 賞)受賞
2023年 metasequoia 2023 笹貫 淳子賞 受賞
新埜康平 Kohei Arano |
90年代が纏う“KEEP IT REAL”の空気感
――新埜さんが題材にされるのはストリートカルチャーの中でもウォールアート、スケートボード、HIPHOPといった90年代前後を彷彿とさせるものが多いように思います。この時代のどんな部分に惹かれていると思われますか?
多くの影響を受けた90sのカルチャーはNIRVANAなどのグランジ音楽1が生まれたり、HIPHOPもNASなどが“KEEP IT REAL”の精神2を掲げて楽曲制作をしていたり、等身大のカルチャーが生まれた年代なんじゃないかと考えています。リアルな日常にある美しさや飾らない思いを叫んだり、ありのままの自分を肯定も否定もしない、そんな90sの等身大性の格好良さが今でも好きです。僕の作品もそんな等身大の日常の中にある美しさを表現できたらなと思って制作しています。
またサンプリング文化が盛んになったのも90sからじゃないでしょうか。過去の人々が残してくれたカルチャーをつなぎ合わせて新しいものを生み出すという手法も現在の制作にとても影響を与えています。
11990年代初頭、それまでシーンの中心にあったヘヴィメタルと異なる音楽が誕生しました。NIRVANAを筆頭にして、激しいギターと陰鬱とした歌詞を歌う彼らはグランジと呼ばれ、新たな潮流として人気を高めていきます。音楽性だけでなくTシャツにダメージジーンズ、スニーカーといった彼らのスタイルは、当時の若者に大きなムーブメントを起こしました。グランジという名称は「汚れた」「薄汚い」という意味を持つ形容詞“grungy”からきています。
2NAS(ナズ)は1990年代初頭にデビューして以降数多くの名盤を発表し、現在でもHIPHOP界のカリスマとして君臨しています。なかでも1994年に発表したデビューアルバム『Illmatic』は名作として評価を確実なものとしていますが、NAS自身は常に「リアル」に拘り“KEEP IT REAL”=“自分らしくあれ”という等身大の歌詞を歌っています。
――今回の出展作品はどのようなことを考えながらモチーフを選んで制作されましたか?
今回の展示「synchronicity」というテーマに沿った作品の展示をしたいなと思いました。自分なりに色々と考え、イメージが行き交うような漫画の読み切りの羅列みたいな感じになればいいなと。映画のワンシーンのように普遍的な日常を描きつつ、コマ割りの3コマ目のように前後感のストーリー性がある画面の構成を意識しています。
カリフォルニアから眺めて捉えることができた日本の景色の輪郭線
――新埜さんの作品はストリートカルチャーから影響を受けながら、制作には古典的な日本画材が使用されています。日本画材を選ばれたのはどうしてでしょうか?
昔一人でカリフォルニアに行く機会がありました。当時はスケートボード・グラフティや洋画・洋楽などのカルチャーに興味がありましたが、その際にカリフォルニアからみた日本がとても魅力的に見えました。外から眺めたことで、景色の輪郭線を初めて認識できたように思います。
そこから大学で日本画を学び始め、鉱物や木や花、動物の命などを使わせていただき、描く表現の奥深さに多くの学びや感動を感じることができました。表現としても和紙の温かみやフワッと発色する顔料の質感を魅力的に思い、日本画材を使って描いています。こうした日本画材の魅力を伝えることも大切に思っています。
距離をとって多視点から見つめ直す日常的イメージ
――制作の過程では「街や人の視点をサンプリング(再構成)して新たなイメージを作り出す」と仰っていました。サンプリングの際にどのようなことを意識されていらっしゃいますか?
作品との距離感を常に意識するようにしています。距離があると全体が見えるので多くの発見があります。
街の壁のグラフィティ、それを描いた人、描かれた時代、といったように街や人にはそれぞれの視点があります。今を生きている自分や現代だけでなく、そんな沢山の歴史上の視点も意識するようにしています。「温故知新」と言う言葉があるように、昔の表現や知識の中には多くの新しいイメージが同居しているんじゃないかと考えています。
――作品は「厚み」も一つの特徴のように思います。「イメージを伝達するBOXに見せたい」と以前仰っていましたが、四角い線で区切った画面はまさにテレビのようです。街中の風景や生活といった身近なイメージをモチーフにしながら敢えてそれらを(テレビの)画面越しで見せるような作品にされているのはどうしてでしょうか?
先ほどの話にも似ていますが、あくまで「作品との距離感を大事にしたい」という考えに起因しています。テレビのような厚みや画面上に枠をつけてイメージを切り取りすることで、ひとつ距離をもたせた画面という意識を強調しています。また作品に厚みを持たせることによって立体的なイメージも取り入れており、下から覗き込むような形で見てもらうと画面下に描いてある作品のタイトルが読めるようになっています。
「楽しんでもらいたい」で建てた小屋のレイアウト
――4月に開催されたtagboat Art Fair 2024ではブースの中に小屋を建てるというユニークな展示が注目を集めました。小屋を建てた展示にはどういう意図があったのでしょうか?
最初は箔を使った作品の見せ方というところから、小屋を建てることを思いつきました。小屋の中にある電球一つの灯で見てもらうと箔の作品は面白いかなと思って。箔の日本画は昔から多く描かれてきましたが、ロウソクの火で生活をしていた当時の人たちが部屋の中を明るくするために生活用具としてデザインしたと聞きます。その疑似体験ができるのではないかな?という考えから小屋を建てたのですが、どうせなら過去に作品として描いた小屋をそのまま立体として二次元から三次元にすることで作品の中のイメージと行き来できるのも良いなと思いました。なによりも「楽しんでもらいたい」が一番の意図です。また何か仕掛けたいです。
――今回の3人展「Synchronicity」は、アプローチの異なる3名の作家の出展がまさにシンクロニシティ(共時性)のもと実現しました。この偶然を活かしてホワイトキューブの空間のなかでどんな展示にしたいと思われますか?
ホワイトキューブは空間に奥行きが出ると思うので空間全体を意識した展示をしたいです。僕は日本画の余白と切り取りのサンプリングイメージを全体で楽しめるような展示をしてみたいなと思います。また天井高もあるスペースなので50号の大きめな作品も展示したいなと考えています。
――最後に、今後挑戦されたいことについて教えてください。
様々なチャレンジをしていきたいと思いますが、まずは今後も制作と向き合い、より良い作品を作っていければなと思います。そんな作品が作れたのなら作品がどこまでも連れて行ってくれると信じています。
今後も応援よろしくお願いいたします。
文責:高橋
新埜康平 Kohei Arano |
新埜康平・カネコタカナオ・中島友太 「synchronicity」
「synchronicity」
24年7月5日(金) ~ 7月27日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
OPENING RECEPTION(DJ/VJイベント)
開催日時:2024年7月5日(金)18:00-20:00
DJ PERK-D(@perkdesignoffice)
DJ Kohei Arano(@kohei_arano)
VJ Yuta Nakajima(@yutanakajima_elm)
入場無料・予約不要
どなたでもご参加いただけます。お飲み物をご用意しております。
出展作品(一部)
以下の作品は6月25日(火)~7月1日(月)まで抽選申込を承っております。
ご希望のお客様は以下のフォームよりお申込みくださいませ。
応募期間:2024年6月25日(火)~7月1日(月)
当落連絡:2024年7月2日(火)
ご入金締切:2024年7月5日(金)
抽選申込フォームはこちら
上記URLより他の作品リストもご覧いただけます。
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新埜康平 Kohei Arano |
過去の記事はこちらから
新埜康平 Kohei Arano
東京生まれ。東京を拠点に活動し、展覧会などを中心に参加している。ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに掲げている。
【展示】
2023年 個展 [Kohei Arano Solo Exhibition] 渋谷パルコ 3LFTNapartment
2023年 個展 [ミックステープ] Gallery TK2
2024年 個展 [Silver Street] SAN BANCHO GALLERY
2024年 [scene4-Poems and Thoughts] JILL D’ART GALLERY
2024年 [Tgboat Art Fair2024] 都立産業貿易センター
2024年 [Bunkamura Gallery Selection2024] Bunkamura Gallery
【受賞】
2020年 第16回 世界絵画大賞展 サムトレーディング賞(協賛社賞) 受賞
2021年 第39回 上野の森美術館大賞展 入選
2021年 第17回 世界絵画大賞展 ミューズ賞(協賛社賞) 受賞
2021年 第56回 神奈川県美術展 入選
2021年 3331 ART FAIR コレクター・プライズ 授与
2022年 Independent Tokyo 2022 審査員特別賞(大和克巳 賞)受賞
2022年 第1回 Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞) 入選
2023年 Independent Tokyo 2023審査員特別賞(小山登美夫 賞)受賞
2023年 metasequoia 2023 笹貫 淳子賞 受賞