海岸和輝は1984年東京都に生まれ、2008年に東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業したアーティスト。2022年Independent Tokyo 2022 では準グランプリを受賞。
大学卒業後は壁画制作やデザイン会社勤務を経験し、10年以上デザイナーとして活躍してきましたが、2020年頃、コロナ禍をきっかけに絵画制作を再開しました。
「線を描いて消す」という絵を描くときの根源的な行為を重視しながら、デザイナーとしての仕事で獲得したadobe Photoshopの技術を駆使したデジタルドローイングや、アクリル絵の具でキャンバスに描く作品などを制作しています。
海岸和輝 Umigishi Kazuki |
Independent Tokyo 2022 展示作品
ー絵を描き始めたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
小さい頃から絵を描くのが好きだったかというと、そうでもなかったのですが段ボールなどで工作をしたりするのは好きでした。
最近も子どもが通っている幼稚園で行われるおもちゃバザーのために工作したりしていました。
ーアーティストを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?きっかけはなんですか?
中学生の時、美術部に所属しておりそこで美術に興味を持ち、美術科のある高校に進学しました。
その時の生活がとても楽しかったのでもう少し勉強したいなと思い、一浪して東京藝大の油画科に進学したのですがあまり真面目に制作をしないままフラフラと卒業してしまいました。
絵を描きたいという気持ちはあったのですがうまく向き合うことができずに、アルバイトをしながら雑貨を作ったり、たまに壁画を制作したりクリエイティブっぽいことをして年を重ねていました。
雑貨制作(ふろしき)
雑貨制作(クッション)
竜神大吊橋アンカレイジ壁画
国際壁画コンペティション取手
27歳の時に就職する必要に迫られて、ほぼ未経験でしたがデザイン会社に入社することができました。そこには2年ほど勤めたのちフリーランスのデザイナーとして活動を開始しました。
未経験の状態で採用していただき色々なことを学ぶことができ、その時に培ったスキルで現在の生活が成り立っているのでそのデザイン会社にはとても感謝しています。
フリーになってからは父親が経営している印刷会社のオペレーター業務を手伝いつつ個人でデザインの仕事を請け負う形で暮らしていました。
アーティストを目指そうというきっかけは、2020年に新型コロナが流行して仕事が激減した時に、ずっと燻っていた絵画制作への気持ちと向き合う時間ができたことが大きいです。
ー作風が確立するまでの経緯を教えてください。
デザインの仕事でペンタブとadobe photoshopを使っていたので、まずはそれを使用してデジタルドローイングを始めました。
大学を出てから絵を描きたいと思いながら形にできない期間が長かったのですが、自分の中のかっこいいと思うものやこれまでの経験、環境などと向き合う形でドローイングを続けて
2ヶ月ぐらいたち、ある程度形になってきたところでそれを元にアクリル絵の具でキャンバスに描き始めました。
作風が確立して最初に描いたのがこちらになります。
《Untitled》 キャンバスにアクリル, S60号, 2020
ー作品を発表し始めたのは何時頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
最初のS60号を描き上げてから、なかなかいいんじゃないかと思って2枚目にS80号を描きました。
それを持ってindependent tokyo2020に出展したのですが残念ながら具体的に次につながるような話はなかったです。
ただその時に知り合えた何人かの作家さんとの繋がりはとても貴重なもので良い機会になりました。
Independent Tokyo 2020 展示風景
Independent Tokyo 2022 展示風景 (準グランプリ受賞)
ーアーティストステートメントについて語ってください。
ドローイングを始めた時は具体的なモチーフとしてはなぜか昔から雑貨や壁画にも出てくる白い鳥と、線を描いたり消したりという抽象的な要素だけで絵画を構成していくという研究をしていました。
最近の変形パネルを使用したオーバーラップ(Overlap)シリーズでは、線を描いたり消したりの「重なり」の意味を考えていて、30年近く前に小学校のパソコン室でペイントツールとマウスで描いたガタガタの線の感動から、油絵で抽象画ばかり描いていた大学時代、可愛いキャラクターのようなモチーフを描いていた雑貨や壁画制作、自分の制作なんて到底できないデザイン会社勤務時代など、それぞれの時代、カルチャー、スタイル、環境であくせくしていた自分がオーバーラップしながら出来上がった作品群になります。
ー作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
photoshopで完成までのデータを作成した後に、線だけのデータにして原寸で紙にプリントしています。それをキャンバスにカーボン紙で転写してマスキングテープを使用しながらアクリル絵の具で塗り絵をしていく形になります。
グラデーション以外の色はデータをもとに番号をふって、絵の具を調色したものをタッパーで先に作っています。
デザインや壁画の経験が役に立っています。
変形キャンバスを作成
Photoshopで作成した完成画像の線画だけ抽出し、カーボン紙で写し取る
マスキングテープを貼り、色を塗っていく
完成
ー作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
当初は自宅で制作していたので制作場所が狭くて大変でしたが、最近アトリエを借りたので快適になりました。
あとはデジタル作業だと間違えたら「⌘Z」で戻れるんですが、アナログ作業だと戻れないことぐらいです。
ー今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
どうしても時間がかかってしまうのですが、できることなら大きい作品を作っていきたいと思っています。
運搬や保管など現実的な問題は多いですが小さくまとまることなく、大きいことはいいことだという気持ちで行きたいなと考えています。
海岸和輝 Umigishi Kazuki |
《経歴》
1984年 東京都出身
2008年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
《受賞》
2022年 Independent Tokyo 2022 準グランプリ
大学卒業後は壁画制作やデザイン会社勤務などを経験したのちフリーランスデザイナーとして生活
10年以上絵画からは距離を置いていたが2020年の新型コロナ流行をきっかけに絵画制作を再開
仕事で使い慣れているadobe Photoshopを使用してデジタルドローイングを行いながら
線を描いて消すという絵画の根本とも言える行為を作品化しようと研究している