タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
作品制作にまつわるあれこれや、普段は聞けないようなお話などが満載です。
毎週更新していきますので、ぜひぜひご覧ください!
< BankART Life V – 観光 Under 35 2017 > 2017年 BankART Studio NYK/神奈川、撮影:加藤健
小さいころから絵を描くのが好きでしたか?
人並みにというか、あまりうまくないと自覚していました。紫色が好きだったので、赤と青と白と銀色を混ぜて「赤紫銀色」みたいな色をつくって、それを図工で鬼か何かの絵に使ったら、すごい趣味になってしまった…的な思い出があります。そのうちマンガやゲーム好きから始まって女の子の絵を描きだし、おしゃれな絵柄、サブカル的なものに憧れて、色々と真似たりしてみるようになりました。ただそういう絵と、図工や美術で描く絵とは、別物であるようにも感じていました。縫い物や、祖母に教わった編み物をするのが好きでした。
< BankART Life V – 観光 Under 35 2017 > 2017年 BankART Studio NYK/神奈川、撮影:加藤健
美術の道に進むことになったきっかけは?
小さい頃より絵は上手くなったけれど、それでも相対的には、私は美術よりはペーパーのテストの方ができる人でした。高校生の時、友達にぼんやり美術の方に進もうかな的な事を言ったら「もったいない」みたいな言葉を返されました。たいした意図はなかったろうけど、その行間に立ちすくみ、モヤッときて、いや変わった選択肢をやりきってやりたい、と思うようになりました。そんな出だしです…。
< BankART Life V – 観光 Under 35 2017 > 2017年 BankART Studio NYK/神奈川、写真提供:BankART1929
< Coffee & Art vol.4 古橋香 > 2014年 茨城県水戸市街地、撮影:根本譲 写真提供:水戸芸術館現代美術センター
しかし啖呵を切ったはいいが、正直なところ絵についての知識はゴッホとかセザンヌあたりで止まっていました。自分のやりたいのはそういうザ・画家より軽い感じのする何か。そしていざ美術系で大学を受験しようと準備を始めると、恐ろしいほど絵の上手い人がたくさんいることに圧倒されました。ぎりぎりのところで感性と期待とをこちらへ繋いでくれたのは、99年頃に水戸芸で観た「なぜ、これがアートなの?」という現代美術の入門的な展覧会だったように思います。おしゃれさと抜けてる感と、ユーモアと余地と。ある意味、その時感じていたどう行けばいいのか?という疑問を保留にしてくれた体験だったのかもしれません。
いま、美術は私の専門にはなったが、その道を築き、道を歩んでいるのかと聞かれると、自信は無いです。経済的なベースには乗っていないからです。
< Coffee & Art vol.4 古橋香 > 2014年 茨城県水戸市街地、撮影:根本譲 写真提供:水戸芸術館現代美術センター
初めて作品を発表したのはいつ、どんなときですか?
どの時点を初めての発表とするか難しいですけど…初めて都内で個展を開いた時かと思います。2007年、京橋にあったPUNCTUMというギャラリーでした。知らない方に展示をしたいとメールを送ること、絵が売れるということ、観にいらした初めて会う方の反応、様々な言葉など、今も心に残る体験がいくつもあります。
制作する日はどのようなスケジュールで進めていますか?
主に早朝に描きます。昼間は仕事と、子どもたちの母、家事。月に2度程度日中続けて描けるという感じです。ある程度の時間継続して絵を見て触っていないと、その絵のことがわかってこないので、じっくり考えてやることは一人で使える時間に。方針を決めれば進められる作業は、細切れの時間や、子どもがそばで遊んでいるような時間にやります。
2007-2016年頃まで制作していた共同アトリエ、アートスペース・テンカウント
作品の制作手順や方法などを教えてください。
造形的な興味を色々試そうと思って描いています。前の制作で選ばなかった色とかたちの組み合わせや、水彩で描いたドローイングなどから案を拾います。身近な風景などがゆるくモチーフになる場合が多いですが、地形、地層や鉱物の写真にきっかけを得ることもあります。それが何なのかは割とどうでもよく、ものの造形的なルールを借りに行くつもりで見ます。色は季節や自分の状況に影響を受け易いです。初夏は黄緑が多くなり彩度が上がります。
画面に時々登場するフェンスのようなものは、まさにフェンスで、ぼやけたものがピントの合っている遠景の前にあるのを描いてみようという興味から始まりました。今では、画面の要素を空間的にも時間的にも繋いだり隔てたり、様々な役割を果たしているように思います。この配置は最初から決めて描いています。
油彩に入る前にオイルパステルなどを使って、ざっくり構成を小さい紙のピースで決めます。
そのピースを指針に油彩で描き始めますが、それに近づけるのではなくそこから膨らませていこうとするため、毎回初期段階は手探りのような感じで、結構長い時間たくさんタッチを置いて足掛かりをつくっては不要なものを消す、というようなことをします。悩みながらも、だんだん最後まで通用すると実感するかたちや色が積み重なっていって、それらを基準に決めていきます。できるだけ絵の始点から離れ、それでいて自立している状態を目指すゲームのような部分があります。最初の紙のピースに立ち戻って、シンプルな性質が残るよう、描きすぎない、かたくしないことを心がけて進めます。
撮影:大谷健二
現在、力を入れて取り組んでいること
今年の8/24から群馬県中之条町で開催される、中之条ビエンナーレの作品を制作中です。ビエンナーレに先立ってそのプレビュー展というものが8/6~8/18に西武渋谷店で開催され、そこにも出させていただきます。是非観ていただきたいです。力を入れていること…というと、そういう制作とワークライフバランス的なこと、どう毎日を組み立てていくのかということそのものだと思います。
< 中之条ビエンナーレ2015 > 2015年 旧廣盛酒造/群馬、撮影:宮本和之
将来の夢、みんなに言いたいこと
できることなら1年、数ヶ月でも、仕事の代わりに制作する機会を得て、もう少し濃いペースで絵を描いてみたいです。
子どもの頃、テレビでフィギュアスケートを見て母は「日本は技術点はとれるけど芸術点はだめなのよねー」と言っていました。技術と違って頑張っても獲得しがたい何か=芸術性、みたいなことだったのでしょうが、こういう捉え方は芸術を謎のものへと押しやる気がします。一方で、何かしら演奏したりダンスしてみたり、もちろん描いてみたりすると、ちょっとした音や動きがあるニュアンスに対応している…というような言葉の外の発見につながります。そういう個人的な蓄積が、どんなメディアでもアートに触れるとき直接的に動員されるものである気がしています。ただ、その関連付けはナチュラルにはできないもので、たくさんの勇気と見当違いとを踏み台にする必要があります。
「絵はわからない」「絵は描けない」という言葉を聞くとちょっと残念です。身近にいる子どもの絵を「上手だね」以外の語彙で褒めたら、その子には小さな変化が訪れるかもしれないし、何より案外とコメントする方が難しいでしょう。明確で定量的な基準に頼らず、何かの良さとか美しさについて言い合える土壌が育てばいいなと願っています。
撮影:大谷健二
1982年東京都生まれ。茨城県在住。2007年筑波大学大学院修士課程芸術研究科修了。<とおい/ちかい> <かたい/やわらかい> <おもしろい/こわい>などといった、対極的な二面性を持つ身近な物事への興味を起点に絵画を制作。色彩のストロークや滲みなどの抽象的なかたちを用いて、起点から遠く離れた別物のすがたを生じさせることを模索する。
個展
2017 BankART Life V – 観光 Under 35 2017「小穴 琴恵・衣 真一郎・古橋 香」(BankART Studio NYK/神奈川)
2016 Shinyscapes – まばゆい光景(ギャラリーSAZA/茨城)
2016 古橋香 展(六本木ヒルズクラブ/東京)
2014 街なか展示「コーヒー&アート」Vol.4 古橋香(水戸市内飲食店/茨城)
2014 Protean Kid(Shonandai MY Gallery/東京)
2013 ほどけゆく山 山はわたし(Shonandai MY Gallery/東京) 他
展覧会等
2019 FACE展2019 損保ジャパン日本興亜美術賞展(損保ジャパン日本興亜美術館/東京)
2018 シェル美術賞展2018(国立新美術館/東京)
2017 風土の祭り(常陸國總社宮/茨城)
2015 中之条ビエンナーレ2015(旧廣盛酒造/群馬)
2014 トーキョーワンダーウォール公募2014入選作品展(東京都現代美術館/東京)(’13)
2012 MOTHERS(シャトー2F/東京)
2011 BankART Artist in Residence 2011(BankART Studio NYK/神奈川)
2009 前橋アートコンペライブ2009 受賞作品公開展示(前橋市役所/群馬)
2008 カフェ・イン・水戸2008(水戸市街地/茨城) 他
受賞等
2019 FACE展2019 損保ジャパン日本興亜美術賞 優秀賞
2012 第27回ホルベイン・スカラシップ奨学生
2009 前橋アートコンペライブ2009 伊東順二賞