2020年9月11日より開催の「TAGBOAT×百段階段」展の会場となるのは、昭和10年の面影を残すホテル雅叙園東京の木造建築「百段階段」です。99段の階段廊下で結ばれた7つの部屋はそれぞれ趣向が異なり、各部屋の天井や欄間には、当時屈指の画家や大工によって創り上げた美の世界が広がっています。
美人画の大家、鏑木清方が愛着をもって造った部屋「清方の間」には、闇と光のコントラストで妖しさを漂わせるタグボート作家・後藤夢乃の作品が床の間に並んでいます。本展における作品制作について、作家本人にお話を伺いました。
百段階段「清方の間」展示風景
後藤夢乃Yumeno Goto作品ページはこちら |
「Gorgon (Stenno, Euryale, Medusa)」は何をモチーフに描きましたか?
メデューサの絵は、人の目を見たいけれど、石にしてしまうから見ることが出来ないといった葛藤を描きたいと想い制作しました。
「Gorgon (Stenno, Euryale, Medusa)」¥385,000-
「海を持ってくる(儀式としての)」は何をモチーフに描きましたか?
魔術的な儀式では全裸で行なうことが神聖とされることが多く、そして海にまつわる存在として女性の裸、貝殻や小さい船を描いています。
この世界では海へ行くことは出来ないけれど、空想をよりリアルに感じることで海を持ってくることは出来るといった詩的な感覚を昨今の状況と重ねて描きました。
「海を持ってくる(儀式としての)」¥242,000-
全体的なモチーフの傾向として神秘的で、中世西洋的なものや、伝説を扱うことが多いです。私はこういったものが好きであるし、描き続けることを選択しました。
西洋では物事を善と悪、白と黒をはっきり分ける傾向にありますが、日本ではこれをはっきり分けず曖昧に融け合わせる傾向にあると考えています。
私の作風は西洋的であるけれど、日本的な曖昧さを伴っていることが特徴であると考えています。
また、私は個人の内省的な幻想世界を描いているのではなく、現代の私たちにも共通する人間や事象の根底的な部分を探りながら描くことで、昔からなんら変わることのない今を生きる私たち自身のことを描いています。
光と闇のコントラストが印象的な作品ですが、何か意図はありますか?
暗闇を描くのは、陰陽のような光との関係を意識しているからです。闇の中から光る宝石をつくる感覚です。
世界が明るさだけで成立していないことを暗闇と光によって表現しています。綺麗な絵具から凄い色を抽出してオイルを調合して魔術のような絵を描くことを目指しています。
百段階段 展示風景
作品のアイデアはどのような時に思い浮かびますか?
日常の様々な場面で気づきます。次はこんな事を描きたい、と前回描いた絵を振り返りながら想像します。作品を制作しているときに思いつくこともありますし、寝る前にふと浮かび上がることもあります。
電車に自転車など、乗り物で移動しているときも多いです。特に電車に乗っているときは、移りゆく景色を眺めながら思考もどんどん動いていきます。揺れを感じながら思考を巡らせている時間はとても心地よいです。
本を読んで、イメージを引き寄せることもしています。
作品に使っている材料は何ですか?
支持体はシナベニヤによる板パネルで、絵具は油絵の具です。油はマイメリが多いです。
板パネルを使う理由はどうしてですか?
板パネルを使用するきっかけは、パリにあるギュスターヴ・モローの美術館に足を運んだことに起因しています。
モローの板に描かれた繊細な絵具の重なりに興味が湧き、板にしか出来ない表現の実験を繰り返し、その素材と表現に魅入らされていきました。
板パネルはキャンバスよりも描いている時の抵抗感が強く、私の力強い描き方を受け止めてくれます。また、平滑な画面をつくりやすくなり透明絵具を何層にも重ねやすく、さらに下層を効果的に見せる為の乾いてない上層の拭き取りがしやすくなりました。
制作にとりかかる前に、準備することはありますか?
作品制作に集中する為に少しの時間、瞑想しています。また、次はどういう手を打とうかとイメージを膨らませてから挑んでいます。
制作にかかる時間はどれくらいですか?
最短で小さい作品は二週間、大きい作品は一ヶ月程です。
作品の完成はどのように見極めますか?
動かしている手が、ゆっくりになってきた時“そろそろ終わりだな”という感覚になります。絵から出る煌めきみたいなものを感じたら、完成です。
今回の展示では、どこに注目して観てもらいたいですか?
人物であれば、表情です。怒りなのか哀しみなのか、慈愛の気持ちなのか、どういう気持ちを鑑賞者に伝えたいのかを意識して描いています。
盛り上がった絵具の細かな色や、暗色部分の単色ではない様々な色にも注目して頂きたいです。
展覧会名: | 「TAGBOAT×百段階段」展 ~文化財と出会う現代アート~ |
開催期間: | 2020年9月11日(金)~10月11日(日) |
開催時間: | 日~木曜日・祝日 10:00~17:00 金・土・祝前日 10:00~20:00 ※入場は閉館の30分前まで |
入場料: | 当日¥1,600/前売¥1,500 ※9月10日まで公式オンラインチケットにて販売 学生¥500 ※要学生証呈示、未就学児無料 |
会場: | ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」 |
主催: | 株式会社タグボート・ホテル雅叙園東京 |
販売窓口: | ホテル雅叙園東京(当日のみ)、公式オンラインチケット |