制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの塩見真由さんにお話を伺いました。
塩見 真由Mayu Shiomi |
今回ご紹介いただく作品は何ですか?
“PUNK 365” (Malcolm McLaren & Vivienne Westwood)”です。
PUNK 365” (Malcolm McLaren & Vivienne Westwood) #16/365
前回のインタビューは制作の軸となっている彫刻作品について取り上げましたが、今回はこちらの平面作品をご紹介します。
この作品はどのように思いつきましたか?
大切な友人が他界し、全く制作をする気持ちになれなかった時に、心の中にいる彼女とおしゃべりしたいなと思いました。そしてお気に入りの”PUNK 365”という写真集から一緒にわくわく盛り上がれそうな写真を選んで描き始めたのが、このシリーズのきっかけです。
同じテーマを繰り返し描く私的なプロジェクトとして、365枚を目指しています。なかなか進まず、もはや何年かかるのか分かりませんが、自身の内面と画面の表層的なものがどう絡み合って変化していくのか、過程を表象し得る計画でもあります。
PUNK 365” (The Sex Pistols, 1977) #1/365
この作品の被写体はどのように選びましたか?
写真集をすべて丁寧に1枚ずつ描画していったら、陳腐な模写か、クールな海賊版になってしまいます。良くても悪くても既に世の中にある魅力的な材料を集めて料理をすることで、少しは自分のアイデンティティとやらが見えてくるかな?と描き進めていました。
しかし今回のモチーフは写真集からではなく、友人がSNSに掲載していたものが忘れられず、「描いてみたいのですがどう思いますか?」とメッセージのやりとりをして始めました。そのコミュニケーションも作品の一部と考えます。最近は写真や画像以外に映像の1場面を取り出してモチーフにしたりしています。
PUNK 365” (Girls) #14/365 オーディエンスも心惹かれるモチーフです。
この作品はどこに注目して見てもらいたいですか?
私にとって平面作品とは、すべては彫刻に想いを遂げる青写真であり設計図であるという意識が強かったので すが、近年はそれ自体を独立した作品として発表しています。
しかしこの作品群に関しては「ペインティング」と呼ぶことに妙に違和感があり、「ドローイング」もしっくり来ない…と煮え切らない時に、そうだこれは「地図」なんだと腑に落ちました。
過去を今描いている未来の地図というイメージです。何が描かれているかという以上に、俯瞰した全体像やストローク、近付いて見えてくるディティール等、地図を読む冒険者のように見てもらえたら面白いんじゃないかなと思います。
Miss, W & Mr, D (2013年) 対象物を取り巻く空間に注目して描いている。
この作品に使っている材料は何ですか?
支持体は木製パネルです。私は「たわし」の絵を描く時は「たわし」でごしごしこすったり、「足跡」を描く時は「ブーツ」で画面を踏んだりします。そんな描き方にも持ち堪えてくれる木製パネルの挑戦的な固さが気に入っています。
描画材料はジェッソ、アクリル絵具、油性塗料、ラッカー、コンテ、です。背景の金網は、本物の金網を使いステンシルのようにマークをして描いています。
今回の作品で主に使用している材料
画材について気に入っているものはありますか?
Montana Colorsのグラフィティスプレーと、ゴールドのスプレーが気に入っています。 Montana Colors 94 は色が189色もあるので使いたい色が気軽に見つかることと、ロープレッシャーでつや消しなのが扱いやすいです。ゴールドのスプレーは「メッキ調スプレー」という、 「調?」というネーミングも気に入っていて、キッチュな発色が病みつきになります。
スプレー缶は一部、立体作品の素材に使用した瓶のコカ・コーラのラックを利用して収納しています。
この作品はどのような手順で制作しますか?
下地を作らないこともありますが、今回はパネルを磨き、ホワイトジェッソを2回程塗り、ヤスリで再び磨き下地を作っています。
毎回手順も方法も違い、アドリブ旅行のようにノープランなのですが、これはまずモチーフの量を置くという感覚でローラーでコロコロとあたりをつけています。
なんとなく画面にモチーフが見えてきたら一気に描き上げてしまうことが多いですが、今回は一旦寝かせて、また起こして、を繰り返して描いています。
ローラーで量を置きながら構成を考えています。
制作工程でこだわっていることはありますか?
モチーフに忠実であることはあまり重要ではなく、動かないテーマと継続的な取り組みの中でどれだけスピリットを持って自由になれるかを試すことにこだわっています。
PUNK 365 (Iggy Pop, 1981) #15/365
今後どのような制作、活動に取り組んでいきたいですか
今気になっているのは、地球は平面であると主張する「フラットアース」という考え方と、自給自足の生活を送る「アーミッシュ」と呼ばれる人々の存在です。「フラットアース」論には同じ考えの人がたくさんいることを知り共感しています。「アーミッシュ」については、自分とはまるで違う価値観を持っているため興味があります。
作品には”PUNK”というカウンターカルチャーを作品のひとつの要素として組み込んでいますが、私自身は洋楽邦楽、ソウルもジャズもポップスも聞きます。「ジャンル」というものは、どう表現したらより多くの人に伝わりやすいかを説明できるようにカテゴライズされたものなんじゃないかなと思います。そんなジャンルにとらわれることなく、色々な考え方を取り入れて、ちょっと説明しようのないどう形容したら良いのかわからないような表現を具現化できるように、境界線なく取り組んでいきたいです。
PUNK 365 (The Sex Pistols, 1977) #17/365
塩見 真由Mayu Shiomi |