制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの清水智裕さんにお話を伺いました。
清水智裕Tomohiro Shimizu |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
『Foundation』という作品です。
『Foundation』2020、油彩・キャンバス、45.5×45.5cm
この作品はどのようにして生まれましたか?
四六時中、常に次作るものを考えているので、目に入るもの全てがアイデアの思いつくきっかけとなります。
そのアイデアの種のようなものが本当に作品として成り立つかどうか、その取捨選択の方が思いつきそのものより重要かもしれません。
今回モチーフとした高級セダンのトヨタセンチュリーは、最近フルモデルチェンジしました。自分がよく知っている旧来のデザインは、今後少しずつ地球上から姿を消していくことになります。
かつて慣れ親しんでいて、いまだ覚えてはいるが、いずれ時の経過とともに失われつつあるもの。普段は気に留めていない、そのようなものにふと気づいたとき、作品として物質化したいという思いに駆られます。
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
今日知った知識が昨日の記憶を覆い隠し、日々堆積していくのならば、「かつてあったもの」を記憶の地層から発掘し、洗い出して見せることで、「現在」の背後にある、脈々と続いてきた大きな存在を意識できるのではないかと考えています。
目に見える形と同時に、余白部分の形にも意識してもらえればと思っています。
制作現場はどんな場所ですか?
自宅の一室を制作現場にしています。
広く、床が板張りなので靴を脱がずに作業でき、のこぎりや金槌などを自由に振ることができます。
自宅をアトリエにすることで困っている点はありますか?
本来パーティ会場として使う部屋らしく、蛍光灯の代わりにミラーボールやシャンデリアが取り付けてあって、やけにムードのある照明になってしまうところです。
そのままでは制作することが出来ず、もともとの白熱球をすべて蛍光灯に変えたのでえらい出費でした。
この作品に使用している材料はなんですか?
画材は油絵具です。
クサカベの製品が多いですが、特に品質にこだわりがあるわけではなく、単にロゴが柳宗理デザインだからという理由です。
絵具を拭き取る溶剤はホームセンターなどで売っているうすめ液を使っています。
油絵具を選ぶ理由はなんですか?
油絵具は乾きにくいため、昨日描いたものを今日消して描き直すことができるので、いろいろと試したり描きながら試行錯誤するのに向いていると思っています。
道具はどのようなものを使用していますか?
プリンストン社の「snap!」というシリーズの筆を使っています。
毛にコシがあって、柄の部分のカラーリングがきれいなので気に入っているのですが、あまり扱っている画材屋がないところが悩みです。
ほかには、着なくなった服などの端切れ、ゴムべら、スキージー、消しゴムなども使います。すべて絵具を拭き取るための道具です。
制作にとりかかる前に、準備することはありますか?
作品を作るにあたって必要な資料を集めます。雑誌やネット、自分で撮った写真などを切ったり貼ったりして、どのような形になるかを決めます。
私は制作前に完成イメージを思い描けていないと作業に入れないので、ここできっちり固めておきます。
ほかにも下書きというかドローイングのようなものを何枚も描き、資料そのままではなく修正やデフォルメを加えていきます。
制作はどのように進めますか?
まずキャンバス全体を油絵具で塗り潰します。
次に中心や左右の位置を把握するために、目安となる印を付けて行きます。
溶剤を使って、残したい形以外の絵具を拭き取っていきます。筆や布などで全体の形の輪郭が浮かび上がるように周りを消していきます。
こまかい部分はゴムべらやスキージーなども使います。
余分な絵具をすべて拭き取ったら完成です。
絵具を拭き取るという方法はどのようにして辿り着きましたか?
以前は筆で人物や風景を描いていたのですが、だんだんと“ものを描く”という行為に違和感を感じるようになり、このままではいずれ行き詰るようになると思うようになりました。
「何を描くか」を考えていては答えが出ないと思い、「どう描くか」という手段そのものを模索し始め、その結果として、ものを描くのではなく、もの以外を消すという今のやり方にたどり着きました。
制作にかかる時間はどれくらいですか?
絵具が乾く前に終わらせなければならないので、小さいものなら1~2日で完成させます。
大きい作品は一気に終わらせることが難しいので、いくつかのブロックに分けて同じ作業を繰り返していきます。
作品の完成はどのように見極めますか?
ある段階で、その作品に興味がなくなるというか、飽きるというか、そんな瞬間がくるので、そうなったら完成です。
その時点であきらかに制作途中だったら、それ以上続けてもモノにならないので破棄します。
制作中はどのようなことが頭に浮かんでいますか?
この作品が部屋に掛けてあったらどう見えるか、作品をしての強度はあるか、自分にこれを描く意欲はまだ消えていないか、などを考えています。
制作の中で、苦手な作業はありますか?
絵具をふき取りやすいように、あらかじめキャンバスを滑らかにしておく必要があります。
目止め剤を塗って乾かしてはやすりで磨いて…という作業を3~4回繰り返すのですが、早く制作に入りたいという気持ちから、その工程を面倒に感じるときがあります。
制作の中で気を付けていることはありますか?
なるべく時間をかけずに完成させようとしています。
凝り性なのでいつまでもひとつの作品を手直ししてしまいがちなのですが、長い時間をかけたところで大して変わりばえはしないし、そんな自分の性格が嫌になっていることもあり、細かいことは気にせずなるべくささっと終わらせることを目指しています。
今、作家として心掛けていることはありますか?
美術館やギャラリーなども閉まり、外出もままなりませんが、そんな状況からでも、あるいはそんな状況だからこそインプット出来るアイデアの種はあると思います。
今現在の空気を反映したものが現代アートだとするならば、今日何が起こりそれについてどう感じたか、制作の動機になるものを毎日探しています。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
この歴史的な出来事に直面することで、考え方、暮らしぶり、生き方全般において、自分にどういう変化が生じているかを意識することは有意義だと思います。
未曾有の事態が起こると、自分のような職業はとかくその存在意義を問われがちです。
私自身、はっきりした解答なんてまだ見つけられていませんが、「そんなものが今なんの役に立つ!?」と迫られたときにどう答えるか、常に自問しておくべきだと思います。
清水智裕Tomohiro Shimizu |