制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの濱村凌さんにお話を伺いました。
濱村 凌Ryo Hamamura |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
様々な技法や素材の作品を発表していますが、今回は『夜想』という絵画作品をご紹介します。
「人が人と関わった時に生じる間」を表現することを作品制作の一貫したテーマにしていますが、『夜想』ではその間を「銀座の夜」をモチーフにして描いています。
銀座の夜をモチーフに選んだのはなぜですか?
この作品を制作するタイミングで、ちょうど銀座の会場で展示する機会を頂けました。
展示会場になったことがキッカケというのと、銀座は自分にとって特別な街という捉え方を元々していたこともあり、この街の魅力はどこから来ているのか、より深く感じて作品にしたいと思いました。
制作の足がかりを見つけるために、実際に銀座のいろんなところに行くうちに気づいたのが、夜の銀座は何とも煌びやかで華があるということでした。そこから、さらに30回ぐらい銀座を様々な角度から観察して、「銀座の夜」をモチーフに色を重ねていくことにしました。
どのような制作環境でこの作品は生まれましたか?
この作品を制作するにあたって、隅々まで銀座の街を歩き、気づいたことがあればメモを書き留めるということを1カ月。その後、さらに自分のアトリエで真っ白な画面に向き合って進めました。
そのため、銀座という生きた街と自分のアトリエが今回の制作環境でした。
制作時間はどのくらいかけましたか?
1カ月の銀座での着想期間を経てから、そのアイデアを熟成する期間が1週間ありました。
それまで集めた資料や本、人との対話を重ねたりするのですが、より良い状態で筆を握れるようにするために、やるべき事は多かったので、あっという間でした。
その後にいよいよイーゼルを立てて始める訳ですが、このタイミングでは、自分がどう進めれば良いか65%はイメージできていましたので、4日間で完成させることができました。なので、トータルですと1カ月半ぐらいでしょうか。この作品を制作している間も、他の作品は並行して進めていましたが。
どこに注目して観てもらいたいですか?
どこか一部分というよりは、画面全体を感じながら、銀座の風景を思い浮かべて観て貰えると良いかもしれません。
それぞれが抱く銀座のイメージと目の前にあるこの作品は、響きあっているのか、それとも違うイメージなのか、そんな見方も面白いと思います。
ただ、特殊な技法で制作を進めていますので、作品そのものの特有な質感や映えぐあいなどもあわせて楽しんで頂けると嬉しいです。
その特殊な技法とはどのようなものでしょうか?
あまり使われる方がいらっしゃらないパール系の絵具を扱った描き方です。
というのも、パール系統の特徴として、見る角度や展示した時の周りの環境で色彩や光沢が幅広く変化します。そのため筆を動かしている間も、常に少し先の進行状態や中間地点での画面のできぐあいを想像しながら描き進めなくては特徴を活かせないため、扱いがとても難しいです。
今回の作品では、その素材が銀座の夜の色気に繋がるように、たっぷりと盛ってナイフのみで描ききりました。
この作品はどのような人に観てもらいたいですか?
興味を持って頂いた全ての方にお見せしたいです。
アート作品の前では、年齢、職業、性別、その他日頃背負っている肩書きは一切関係なく皆平等と考えています。なので、この作品から生じる時間や空間をそれぞれの趣向に合わせて味わって頂けると作家冥利です。
ただ、その一方これはあくまで作者の予想ですが、最終的にこの作品は銀座に対して甘美な想いをもっている方の手元にいくのではと感じています。
作家として今、伝えたいことはありますか?
今、こうしている時も様々な感情が世界で叫びをあげていると思います。こんな時こそ、アートを訪ねてみてください。僕は展示会でいらしたお客様に、人の1番大切な仕事はただ生きることだとお話しすることがあります。そして、そのために全てのアート作品は存在するとも。
アーティストができるのは、作品を制作することです。
しかしながら、ただ作品を発表しているのではなく、作品から生じる時間や空間を想像しながら、毎日筆を動かしています。それはどんな時でも変わりません。
濱村 凌Ryo Hamamura |