制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの小池正典さんにお話を伺いました。
小池 正典Masanori Koike
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今回ご紹介いただく作品について教えてください。
いくつかの素材で主に立体物を作っていますが、今回は陶土を主に使用した作品を紹介します。
『浅い目覚め』という作品です。
このシリーズは、種から植物が生えてくるように育っていくイメージで作っているので、生える・育つなどの意味がある「Grow」シリーズと名前を付けました。
私が作る立体物には、細い足で支えられているものが多く、私たち人間も似た姿をしています。人間には植物のような根っこは生えていませんが、同じように土から出てきた物を食べ、土の上に暮らしています。
この作品を制作しようと思ったきっかけはなんですか?
私は、変化をし続ける平穏な日常の中で生きています。
しかし、近年の自然災害などで感じた、圧倒的な力で崩れていく日常の光景を前にすると、この世界の中心に自分が存在しているわけではなく、多くの事象の一部に過ぎない事を示唆されます。
そういう多くの事象に過ぎないこの世界を形成している一部、例えば動植物など時間の経過によって少しずつ変化していくものを、客観的に観察したいと思っています。
この作品は、春先に生き物が芽吹くようなイメージです。 色も桜の色のようにうすピンクにしました。怪獣のように見えますが、土や石のような無機物と、躍動感がある生物との中間のような物を作りたいと思い制作しました。
この作品はどのような場所で観てもらいたいですか?
都市部の人工物で囲まれているような場所が良いと思っています。理路整然と場を作られているような所に展示することで、作品と場の間に面白い対比が生まれそうだからです。
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
色とテクスチャーです。目を引くような色を使うのが好きなのと、どんな感触なのか気になるようなテクスチャーを作りたいと思っています。
生き物のような植物のような、どちらとも言えない雰囲気を見て欲しいです。
この作品に使っている材料はなんですか?
少し前までは石粉粘土などで立体物を作っていたのですが、現在は主に陶芸の技術を使って作品を作ってます。材料は陶土、釉薬など食器に使用されているものです。
というのも、元々作品を作る動機がアニミズムなどの自然崇拝に起因しているところがあり、そこらへんに転がっている石のような物言わぬ存在を作りたかったという理由があります。経過した時間を感じられるようなもの、例えば岩に生えた苔などの自然物や遺跡など、過去を感じられるものが好きだということもあり、時間の風化に耐えることができる素材を探していました。
そして、自分のやりたい事が粘土と釉薬のような自然物に近い素材と相性が良いと思い、この材料にたどり着きました。粘土と釉薬の使い方次第で、手作業では絶対できないテクスチャーを作り出すことができるので、表現の幅が広がっています。
粘土や釉薬を使う上でこだわりはありますか?
粘土の種類は作品の仕上がりに関係するので、作品によって使う粘土を使い分けています。
釉薬、陶芸用絵具も数種類使い分けています。海外の釉薬は発色が強いものが多いのですが、強い色が好きなので使用することが多いです。
この作品に使っている道具はなんですか?
削りベラや、傘の骨から削って作った小さいナイフを使っています。市販のものより刃が肉薄なので繊細な使い方ができます。 このように用途によって自分で道具を作ることもあります。
制作の進め方を教えてください。
①この作品に限らないのですが、構想を練るためのスケッチをします。その時考えた事を、絵だけではなく言葉もメモしておきます。この段階では、立体物を作る前提のスケッチではありません。
そして、日頃描きためた物の中から立体物にできそうなものを選びます。制作の中で構想を練るこの作業が一番好きです。なぜならこの段階では大した苦労はなく夢想に近いから楽しいのです。
構想を実現させるためには、設備や場所など必要なものがたくさん出てきます。実行に移す為に、重い腰をあげるのにいつも時間がかかってます。
②粘土の硬さを均一にするために練ったものを用意します。
③塊から形を出していきます。
④構想に近い形になってきたら、手を一旦止めて全体の形を見ます。その後少し乾燥させます。ある程度乾燥させたら紐で半分に切ります。
⑤中空にするため、中を掻きベラでくり抜きます。暑さが均一になるようにします。
⑥中をくり抜いたら、再び接着させるためにクリーム状にした粘土を断面に塗ります。
⑦接着し、形を整えて仕上げます。かっこ良くなりすぎないようにするというか、作為的になりすぎないように気をつけて(自分の基準で)納得ができたら手を止めます。釉薬などで表面のテクスチャーが変化するのでそれも想定しておきます。
⑧作品が完全に乾燥した後、電気窯で焼成します。作品の乾燥時間は大きさによって変わります。今回紹介している作品の大きさ(20㎝位)の場合、夏場だと約4日間程です。大きいものになると2~3週間かかります。冬場だと更に時間がかかります。
⑨釉薬実験を兼ねた小作品をいくつか作っておき、あらかじめ完成作品の色合いや雰囲気を掴んでおきます。
作品は720°で焼成後、釉薬を筆で塗っていきます。釉薬の種類で作品のテクスチャが全く変わります。
釉薬を塗る前に720°で一旦焼成する理由は、焼成せずに釉薬を塗ると釉薬の水分を吸収して作品が壊れる可能性があるからです。その後、1200°以上の熱で再度焼成します。1200°以上で焼成する事で、粘土がガラス質に変異し、作品の見た目が変わり耐久性が高くなります。
⑩陶芸用の絵具で着彩する場合もありますが、アクリル絵具で着彩する事も多いです。着彩は好きな作業の一つで、色を塗るために物を作っているような気さえします。台座に細い鉄棒を使って作品を固定し、全体の立ち姿などバランス見て、良ければ接着剤で固定し台座を塗装後、完成です。
制作の中でみんなが楽しめるような工程はありますか?
以前ワークショップでの制作工程を紹介します。
この通りに出来なくても良いと思うので何かの参考になれば幸いです。
空想の生き物を作ってみよう
人間は古代から想像の生物に様々な願いを託して表現してきました。
私たちの胸の中にもそんな願いとともに、新しい見た事もないような物を生み出す想像力が眠っているはずです。身の回りのありふれている物や言葉、あるいは詩をもとに作ってみましょう。
<用意する物>
・石粉粘土(画像のものはパジコというメーカーのプルミエという粘土。用意できなければ紙粘土でも可))
・台座となる木製ブロック(ホームセンターなどに売ってる。画像のものは東急ハンズで購入)
・錐、ペンチ、ニードル(模様などをつける。割り箸の先端を削ったものや爪楊枝などでも良い)
・針金、絵具、筆
・その他:粘土ベラ、水とその容器、木工用ボンド、雑巾など
<作業工程>
1)どんな生き物にするか絵を描いてみる。
ちなみにこの生き物は北斗七星の子供で7つの目があり、旅人を見守ってくれる小鳥に似た生き物という設定。設定を細かく考えて作るとより楽しめる。横、後ろ姿なども描いておくと立体物として把握しやすい。
2)アイディアスケッチができたら、芯と足になる針金を半分に曲げる。作品の大きさにもよるが、この針金は長めの方が後々調節できる。
3)適量の粘土を取り出し丸くする。
4)曲げた針金を丸めた粘土に押し込むようにくっつける。
5)針金を足に見立てて、指やヘラなどで形を作っていく。注意点は、粘土は触っていると水分が無くなり乾いてくる。水を少し指につけて、粘土が乾かないように成形していく。アイディアスケッチを見て細くなっている部分、逆に厚くなっている部分がどこなのか、形にメリハリをつけて形作る。
6)ニードルで体毛を表現する。粘土が乾いてしまわないように、少し粘土全体に筆で水をつける。その後ニードルで表面に引っ掻くように跡をつけていく。
7)目を作る。画像のように小さく粘土を丸め、ニードルで軽く掘るように穴を開ける。必要な数を作り、水を少しつけて本体につけていく。目のように細かいパーツは、少し乾かしてやや硬くなってからの方が壊れにくく接着しやすい。
8)錐で木製の台座に穴を開ける。深く穴を掘りすぎないように注意する。少し掘ったら本体の足を穴に差し込んでみる。調整しながら穴を深くしていく。足の針金が長すぎたらこの段階でペンチでカットして、作品が格好良く立つまでバランスを調節する。
9)一旦本体を外しておいて、接着剤を錐で開けた穴に入れる。この時、少量の粘土を台座の穴に入れてから接着剤を入れると、台座と本体が良く接着できる。
10)台座の穴に入れた接着剤が乾かないうちに、本体の足をを再び台座の穴にしっかり入れ、台座と足の設置部分を筆などで綺麗にし、1~3日乾燥させる。しっかり乾燥させたら好きな色で塗っていき完成。
※塗り方のコツは、最初は水を大めに薄い色で塗る事。塗った色が乾いたらその上から徐々に濃い色を塗り重ねていくと失敗が少なく綺麗に塗れる。
<参考作品>
青空の下で陽気な気分を表現した生き物です。
『虹』
夕立の後に現れた虹から着想を得ました。目に見えていたものが、近づいて見てみると形が消えてしまう美しい幻のような虹を擬人化しています。
現在の北極星は、小熊座のポラリスです。地球の自転軸が長い年月をかけて傾いていき、12000年後という長い年月をかけて違う星が新しい北極星になります。命に限りがある人間の何千年と空に浮かぶ目印になってきた北極星をモチーフにしています。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
数ヶ月前とは世の中は変わってしまいました。まるで映画のような話です。
私は美術講師として教育に携わっていますが、現在休校となっており、現場では数ヶ月の学習面での遅れに関して急ぎ対策を講じています。美術の授業もオンラインでの実施となりました。時間割の余裕がなくなってきている中で、美術科目がこのままだと時間的に少なくなるか、あるいは無くなるのではないかと個人的に危惧しているのですが、教育そのものがこれを機会に大きく変化するのだと思います。
様々な捉え方があると思いますが、ARTとはある分野とある分野を結びつけ、新しい価値を作る工夫だと思います。私が今制作に使用している素材は、陶芸で使う粘土と釉薬です。これも考えてみたら科学とデザインの融合です。
他人と過ごす時間が少なくなり、強制的に自分と向き合う事になってしまった人が多くいると思います。作家は自分の正直さ、本音のような部分を上手く引き出す訓練を制作を通して行っています。こんな時だからこそ自分の思考を広げる良い機会だと思います。
今まで積み上げてきた経験と知識に、もう一つ興味がある分野をプラスしてみると、新しい世の中の動きに対応できるものがARTに限らず出来るかも知れません。
微力ながら、携わってる教育の分野にも何かしらの形で影響が与えられるような表現を考える事が、自分自身のこれからの課題だと思っています。
小池 正典Masanori Koike |