制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの有村佳奈さんにお話を伺いました。
有村 佳奈Kana Arimura |
今回ご紹介いただく作品は何ですか?
作品タイトル『残像』『強気100%』『アンバランス』の3作品です。
これらの作品は、「憧れ」がキーワードになっています。
「私は私でいいんだ」という定番の言葉、これは本当にその通りなんですが、それでもやっぱり「理想の何か」になりたいというのも正直な気持ちでもあります。理想に悩み、あがき、そして一旦は「私は私」に落ち着く。このループ。「少しでも理想に近づけていますように・・・」そのループする気持ちを色に込めました。
きっと一生消えない、女の子の悩みだと、私は勝手に思っています。絵のモデルはネットやファッション雑誌で見つけたスタイリッシュな女の子、そして自分自身を、絵でミックスさせています。
この絵を描こうと思ったきっかけは何ですか?
普段絵を描く時は、いつもその時々の自分の悩み、抱えている問題、純粋に描いてみたいもの、など気持ちをダイレクトにのせています。今回は、いつもより大きめの作品を描こうと決めた時に、「”憧れ”とどう向き合うか」という問題にピントを当てようと、思いつきました。
制作された絵が、銀座で展示することが決まっていたこともあって、銀座のビルでスタイリッシュな女の子を展示したいという想いもあったからだと思います。
この作品はどんな人に観てもらいたいですか?
どんな人にも観てもらいといえばそうですが、私と同じように「理想とのギャップ」を感じる人にも観てもらいたいですね。
別に絵を観たから悩みが解決されるわけではないですし、私も描いたことで完全に悩みが消化されたわけではありません。理想と現実の狭間で悩むことは、一生付き合っていかなくてはならないことだと思うので、「まぁ、ともに何とかやっていこうぜ」というゆるい気持ちになろうぜ、というか感じですね。
制作現場はどんな場所ですか?
自宅のアトリエスペースで制作しています。
アトリエで気に入っている点はありますか?
棚に大好きな「セーラームーン」や「カードキャプターさくら」等のおもちゃやグッズを飾っています。
上を見上げると常に可愛い世界がそこにあるって感じがして癒されています。
反対に困っている点はありますか?
なんせ自宅なので、スペースがそんなに広くないことです。狭い。100号ほどの作品になってくるとギリギリなので、遠くから観察することが厳しいので、大変ですね。
使っている材料はなんですか?
キャンバスにアクリル絵の具で描いています。
絵の具のメーカーは、ホルベイン・ターナー・リキテックス・アムステルダムと様々です。
アクリル絵の具を選んだ理由はなんですか?
色の発色が良いことと、乾きが早い点です。私は、じっくり描くというより、思いついた色の組み合わせは即塗っていくスタイルなのでとても合っています。
制作にとりかかる前に、準備することはありますか?
作品を展示する場所、スペースのことを考えて、展示レイアウトイメージを先に描きます。この段階で、どんなサイズの絵を何枚仕上げるか決めます。空間の全体イメージを考えて構成していく形です。
今回は銀座高木ビルに2020年3月に展示予定ということが決まっていたので、その展示スペースに合わせる形でF30号を3枚描くと決めていました。
その後、制作はどのように進めますか?
ざっくりとしたイメージ図をドローイングで描き、そしてキャンバスに下絵を描いて、色を塗っていきます。色は事前に決めることは少なく、基本は頭の中に描きたい色をふんわりとイメージしているくらいです。
制作時間はどれくらいかかりますか?
この時は、3作品と同時に小さい作品も合わせて5点同時に制作していました。時間換算だとわかりませんが、全部で1か月ほどだと思います。
制作の中で、好きな工程はありますか?
自分の中で、絵を少し崩していく段階があるんですが、その瞬間が一番好きです。自分でも予測不可能なぐっとくる瞬間があって、これは偶然がもたらしてくれる色の崩れの面白さなんですが、新しい発見がある瞬間なので、好きです。
制作の中で、嫌いな工程はありますか?
下絵のドローイングの段階ですかね。基本、色を塗ることが好きなので「早く塗りたーい!」という気持ちになります。
制作の中でこだわっていることはありますか?
絵を描き終わった段階、絵を描く途中、絵を描く前、いろんなタイミングで描いた絵、描こうとしている絵について「言葉で表現する」ということです。それはタイトルとなったり、コンセプトの核心となったり、絵を深く表現するための文書になったりします。表現を深めるために、とても大事にしていることです。
みんなが絵を楽しむコツは何かありますか?
子供でも大人でも「絵の具を使って描く」というより、まずは「絵の具を使って遊ぶ」ということを重視すると制作が楽しくなると思います。色の組み合わせ、色の出し方、は無限にあります。正解もその人にしかない。やってみないとわからない。ということで色遊びからおうちでチャレンジしてほしいと思います。
今、作家として心がけていることはありますか?
自粛モードで自分もそうですが、精神的に疲れやすくなってる人が多いと思うので、twitterやInstagramではなるべく癒されるようなタイプの作品の絵を定期的にアップするようにしています。
一瞬目に触れるだけであっても、SNSでふと見る言葉や写真は、覚えてなくても心のどこかに影響するものだと思っているので、少しでも「可愛いなー、いいなー」といったプラスの気持ちになるように心がけています。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
みんなそうだと思いますが、状況の変化に戸惑っています。私は混乱している心を、絵を描くことで精神のバランスをとっているんだと思います。描くことでなんとかなっている。もともと、平常心で居られる手法が、おうちでできる方法で持っていたからなんとかなっている。
でも人によっては平常心で居られる手法が、外出しないとできない人もいるんだろうな、と思うと、なんとも言い難い感情になります。ですが、医療の専門家でも、経済の専門家でもないので、事態がどうなっていくか想像はしても予測はできないので、作家としては、やはり描き続けるしかないですね。
有村 佳奈Kana Arimura |