制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの徳永博子さんにお話を伺いました。
徳永 博子Hiroko Tokunaga |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
≪in the forest≫シリーズです。
「In the forest」徳永博子, 96 x 96 cm
「In the forest 2」徳永博子, 83 x 53 cm
このシリーズは、森の中で空を見上げたときに木の葉から漏れる光と、たくさんの葉や枝が細やかに重なる様から着想を得て制作しました。「無数の葉や枝が一つの木となり、木がたくさん集合して森を作る」というところが私の全体のコンセプト「集積と知覚」に結びついています。
「In the forest m-2」徳永博子, 41.5 x 26.5 cm
使用する色にこだわりはありますか?
ペースは無色ですが、パール系のアクリル絵の具も使用しています。例えばパールやメタリック、ラメの絵の具です。そのまま金属を貼り付けて色面にするという使い方もしています。
金属を使う理由は、それがミラーの役目となり鑑賞者と作品を設置した環境が映り込むからです。カメレオンのようにそれらを溶け込ませることで、一つの印象に定まらない多角的な見方が出来るニュートラルな作品を目指しています。
この作品はいつ、どのように思いつきましたか?
森を散策しながら構想を練り始めましたが、実際着手するきっかけになったのは、アトリエの帰り道にある小学校の桜の木を下から見上げた時でした。
葉の間から電灯の光が漏れ、葉脈が透けて、雨粒が輝いていてとても幻想的でした。
この作品はどのような場所で観てもらいたいですか?
ギャラリーではなく森や海、川、街中に作品を持って行き、撮影することを考えています。
鑑賞者と環境が映り込むことの面白さを、よりわかりやすく表現できるのではないかと思います。
制作現場はどのような場所ですか?
関東近郊の共同アトリエです。広さと都内へのアクセスが良かったためここを選びました。また、住宅街ではないので24時間作業できるところが気に入っています。
その制作現場で困っていることはありますか?
1階なので湿気がたまりやすいところです。作品には乾燥剤をつけたりと、気をつけています。
その制作現場でこだわっていることはありますか?
散らかっている状態が苦手なので、定期的に整理と掃除をして整っている状態を維持しています。
作品に使っている材料はなんですか?
主にアクリル板を支持体にしています。いつも業者から買っているのですが、最近はいろんな人が余ったアクリル板を譲ってくれるようになりました!
アクリル板を使うようになった理由はなんですか?
元々、油絵を勉強していたのですが絵の具を積み重ねていく描き方に馴染めず、絵の具を厚く塗った画面をニードルで削って描画していました。ひょんなことからアクリル板を使うことになり、削ってみると空間に絵を描いているような浮遊感と、色がないことで純度がぐっと増したことに手応えを感じました。それからずっとアクリル板を使っています。
アクリル板を使う上で気に入っていることはありますか?
作品はアクリル板を何枚も重ねて見せる形をとっていますが、完成した後に必ずそのレイヤーをシャッフルしています。そこから更に手を加えることが多いのですが、自分の意図しない形が生まれるので、制作上の最後のお楽しみにしています。
油画と比べても、手軽に作った形を壊せるところが気に入っています。
アクリル板を使う上で気を付けていることはありますか?
アクリル板が高価なため、失敗するとやり直しが効かないので常に気が抜けません。
また、作品の質に関わってくるので、できるだけ耐久性と透明度が高いものを選んで使っています。
作品に使っている道具はなんですか?
リューターという、工芸用精密機器を使って制作しています。主に描画部分に使用しています。一日中使うことが多いので、コンパクトで軽いことを重要視しています。
写真はドイツのドレクセルというメーカーのものでしたが、今はアメリカのドレメルを主に使っています。ドレメルのリューターは軽くてペンに近い使い心地なのでとても気に入っています。
リューターを使う上で困っていることはありますか?
電源コードが邪魔で首に引っ掛けていると、さながら必殺仕事人です。
制作はどのように進めますか?
作品を作る前に、その都度コンセプト確認とそれに伴う資料集めから始めます。
イメージを固めながら作品の完成図を制作していきます。作品の構造が決まったら、アクリル板の発注、オーダーしている額の図面制作からの発注など、材料を集めていきます。それらが揃ったところで、やっとアトリエでの制作が始まります。大きいもの(900×900cm)の作品だと額のオーダーなど含めて2~3ヶ月かかるので、同時進行でいくつかの作品を進めています。
作品の完成はどのように見極めていますか?
一歩手前を感じた時に止めています。性格上、やり過ぎてしまう傾向があるので。
作品を制作しているときはどんなことが頭に浮かんでいますか?
次はどうするか、塗料や接着剤の乾燥など制作の過程を計算しています。
単純作業が続いてくるとラジオを聴いたり、落語を聞いたり、ループするような音楽を聞いたりもします。
制作の中で好きな作業はありますか?
今はドローイングをしている時が一番好きです。
緻密な作業が多いので、のんびり絵を書いている時が最大の癒しです。
嫌いな作業は作業はありますか?
嫌いな作業は計算です。数字にものすごく弱いので、図面には苦労しています。
制作工程でこだわっていることはありますか?
時間はかかっても一つ一つを丁寧に、確実におこなっていくように心がけています。
細かい作業が多く、途方もないと感じることが多いですが、そういうときは「始まれば終わる」と呟いています。完成してしまうと、全ての苦労を忘れてしまうので私の頭は便利なものだな〜、と笑ってしまいます。
外出自粛期間中はどのように作家活動をしていましたか?
今年予定していた展示は、コロナの影響でほぼなくなってしまいました。みるみる消えていくスケジュールに落胆しましたが、今こそじっくり制作と向き合う時期だと考え、自粛生活を過ごしはじめました。
世界の状況はみるみる悪化していき、制作と向き合う時間は今まで以上に社会と向き合わざるおえない時間へと変化しました。日々のニュースを見ながら「ウイルスよりも人間の方がよっぽど怖いわ!」とうっかり声に出てしまうほど苛立ったし、輪にかけてアメリカの人種差別でもの暴動化。今後の自分自身の社会との関わり方を強制的に考えさせられる、強烈な時間を与えられているように感じます。
制作の方は材料の流通も滞ってしまい、アクリル板が確保できず、作品制作ができない状況に陥ってしまい悶絶。頭を切り替えてここぞとばかり映画を見、読みたかった本を集中して読み、たくさんのドローイングをしました。来年に向けて、初めて試みる映像ともコラボしたインスタレーションに向けての制作も始まっています。
期間中、作品として形にできたものは少なかったですが、得たものはとても大きかったです。
今後はどのような活動を考えていますか?
これから社会が大きく変化していくのは目に見えていて、どう変化していくのか想像がつかない日々に新たな時代の到来を感じ始めています。あまり楽観視できる状態ではありませんが、「今」を全身で感じながら、どう生き、何を作るのかじっくり考えたいと思っています。
徳永 博子Hiroko Tokunaga |