制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストのシムラヒデミさんにお話を伺いました。
シムラヒデミHidemi Shimura |
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
鏡を使った作品「パラレルワールド」シリーズです。
その作品はいつ、どのように思いつきましたか?
これはあまり誰にも言ってなかったのですが、3年前くらい前に友人が亡くなった時に「どこか別の世界で生きていてくれたらいいな」という願いを込めてパラレルワールドという新シリーズを作りました。
コンセプトは、リチャード・バック(カモメのジョナサンの著者)の「環境を作りだすのは、われわれ自身である。われわれの生きる環境は、自分の価値にぴったり見合ったものなのだ」という言葉から来ているのですが、その言葉に対する私からの質問「この世界は本当に我々自身が望んだものなのか?それともどこかに私たちの理想の世界が存在するのか??そこで私たちは何をして暮らし、どんな景色を見ているのだろうか?」が込められています。
その作品の色は、なぜそのような色をしているのですか?
なぜこの色なのかを説明すること=私の作品のコンセプトを説明することになるのですが、作品を作る前に写真を一枚選んで用意します。その写真の中の色をピックアップして使っているので、頭で考えた組み合わせではなく、無作為な色の配置になっています。その色の配置は、わたしたちをとりまく世界そのものを表しています。
この世界は様々な人間、様々な物で溢れ ています。小さな部分にフォーカスしてみると、人と人は時にお互いにうまく行かなかったり、物と物も組み合わせがちぐはぐであったりします。
この作品は近くで見ると合わない色が隣同士に配置されていたりするのですが、遠くから全体を見てみると意外とどんな色の組み合わせでも美しく見え、沢山の色が交じり合う所には色彩理論など入り込む余地がないように思われます。
私達を取り巻く世界も一見カオスなように見えて実は調和が保たれており、一歩離れて世界を遠くから見ることにより新たな美しさ・調和を発見できる、という意味を込めています。
その作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
私の作品は写真ではとても分かりにくく、糸で出来ているのですが、近くで見ないと糸で出来ている事に気が付かない方が多いので、いつか是非実物を近くでじっくり見て欲しいです。
その作品の制作現場はどんな場所ですか?
自宅の一室の普通の部屋です。部屋が汚れるような作品ではないのでどこででも制作できます。
その制作現場で気に入っている点はありますか?
猫のネネコさんがいつもいるので可愛くて癒されます。
その作品に使っている材料はなんですか?
シルクの刺繍糸(中国蘇州産)、透明のアクリル棒、アクリルミラー板、両面テープです。
その材料を選んだ理由はなんですか?
光沢のあるシルクの糸を使うことにより、見る角度によって質感が変わる効果を狙っています。透明アクリル棒は光を拡散するので、シルクの糸の光沢をより際立たせる効果があります。
その材料で気に入っている点はありますか?
中国の刺繍の産地である蘇州のシルクの刺繍糸を使っています。市販の刺繍糸に比べて色数がとても多く綺麗で す。現地で買うとシルクなのに安くて材料費もあまりかからないので助かります。
その材料で困っている点はありますか?
とても繊細なので扱いが大変です。つるつる滑るし、すぐに絡まるし、すぐに毛羽立ってしまうので注意が必要 です。
その作品に使っている道具はなんですか?
刃先がカーブした刺繍用の小さいハサミを使っています。メーカーは忘れましたがドイツ製でちょっと高めのものです
今使っているのは2代目で、前のハサミは20年以上使った後にある日突然刃先が割れて壊れました。
このハサミが無いと糸がスムーズに切れないので、作品制作には欠かせないです。小さいのでどこにでも持って行けます。
その作品は、どのような手順で制作していきますか?
透明のアクリル棒に一本一本手で刺繍糸を巻いていきます。棒の裏側にだけ両面テープが貼られていて、裏側だけで糸を留めています。糸を巻いた棒をアクリルミラーに接着して完成です。
そのような手順になった理由はどうしてですか?
もう何年もこの技法で制作していて、前はアクリルの板にしか糸を巻けなかったのが、段々アクリルのパイプや角棒にも綺麗に巻けるようになったので、このシリーズには立体的な手法を取り入れてみました。
その作品の制作にかかる時間はどれくらいですか?
糸を10cm分巻くのに一時間くらいかかります。作品に使っている棒の長さの合計=制作にかかる時間です。
その作品を制作しているときはどんなことが頭に浮かんでいますか?
作品に自分の主観は入れたくないので、できるだけ作品とは関係ないことを考えながら制作します。
映画やドラ マを見たり、音楽を聴いたりしながら手だけは動かすという感じです。例えば、おばあちゃんがテレビを見ながら編み物をするような感じに近いと思います。細かい作業なので、疲れないようにリラックスしながら作業するようにしています。
その制作の中で、好きな作業・得意な作業はありますか?
糸を一本一本重ならないようにきっちり綺麗に巻くのはとても根気のいる作業で、これを続けられる人は滅多にいないと思います。数年前に作った作品と比べると仕上がりが綺麗になっているのが自分でも分かります。
その制作の中で、嫌いな作業・苦手な作業はありますか?
額装作業が大嫌いです。材料がアクリル板とアクリル棒なので静電気が起きやすく、額の中に小さい埃がついてしまうので綺麗にするのがすごく大変です。
その制作工程でこだわっていることはありますか?
とにかく綺麗に糸を巻く事です。世界中に糸を巻いて作品を作るアーティストは結構いますが、こんなに綺麗に糸を巻けるのは私しかいないと思っています。
その作品は、子供でも真似して楽しめそうな制作工程はありますか?
糸を綺麗に巻くのは難しいので、子供向けにアレンジしたものを紹介します。
例えば家にある絵葉書や写真など厚めの紙を適当に3cmくらいの幅に切ります。 裏側に両面テープを貼り、家にある糸を適当に巻きつけます。何色でも綺麗に見えてしまうので好きな色でOK です。
家にある色画用紙の切れ端に適当に配置して両面テープで貼り付けると良い感じの作品が簡単に完成!
他に、家にあるいらないものに何でもぐるぐる糸を巻いてみてもカラフルな作品が手軽に作れると思います。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
地球の歴史は破壊と再生の繰り返しです。そして、私たちはまさに今その転換期にいます。これから新しい世界を作っていくにあたり、今までのやり方ではない新しい方法論が必要となると思いますが、アーティスト達の創造力・想像力が助けになり得るのではないかと思います。
アーティスト達は時として突拍子もないことを言ったりやったりしますが、その中に何か悩みを解決するためのヒントが隠されていたり、仕事に役に立つアイディアを思いつくきっかけになるかもしれません。
一見何の役にも立たないように見える作品を作り続けることについて、この非常事態に何をやっているんだ?という意見があるのも仕方ないことですが、おおらかな目で見守っていただければ嬉しいです。
シムラヒデミHidemi Shimura |