制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティスト、浅間あす未さんにお話を伺いました。
今回ご紹介いただく作品について教えて下さい。
刺繍アーティストの浅間あす未です。
私はもともとイラストレーターとして活動を始め、アクリル絵の具で描いていましたが、現在の手法は刺繍です。
今回は『素足』という作品をご紹介します。
手法について
刺繍で作品を作るようになったきっかけは何ですか?
手法の転機は出産でした。
子供が病気だったため、つきっきりであることが多く、机に水と絵の具を広げ描いたり、それを乾かしたりすることが難しい状況でした。一年以上絵が描けない日々が続き、どうしても制作したいという気持ちが抑えられず、たどり着いた手法です。下書きさえできてしまえば、子どもを見ながら手を動かすこともできるため、製作途中の作品を壁にかけておき、隙間時間を見つけチクチクコツコツと作っていました。
キャンバスに縫うという発想はどのように生まれましたか?
刺繍を始めたころは、刺繍は布に縫うものだという固定概念があったため、布に縫って額に入れるという作品でした。
刺繍初期の頃の作品
友人アーティストに作品を見せたところ、「せっかく今まで積み重ねてきたドローイングもどこかにあれば面白いよね」とアドバイスをもらい、布に絵の具を塗ったりしてみましたが、発色に納得いかず試行錯誤でした。
あるとき、刺繍枠に布を張り作品を制作しているとき、度々緩んでたわむ布が不便だと感じ、どうにかならないかと考えていた時、「キャンバスってそもそもピーンと張りつめた刺繍枠と同じだ、しかもキャンバス地は布と同じように扱えるのに、発色はずっと良い」ということに気づき、作品としても成り立ちうるキャンバス地に直接縫い始めました。
その表現方法について気に入っていることは何ですか?
絵の具を使っていた頃から宝石の写真をスキャンして画像加工するコラージュも取り入れていたのですが、刺繍に変えてから、ダイレクトにラインストーンの実物を縫ってしまえることなど、直観的に表現できることです。結果的に狭められたと思った手法が、逆に今では幅が広がったと思っています。
子供も元気になり、現在はキャンバスにアクリル絵の具を塗り、その上に刺繍をするという混合手法が現在の自分にとってベストな手法になりました。
材料について
作品には何の材料を使っていますか?
アクリル絵の具はホルベイン、糸はDMCが多いです。色によってほかのメーカーも使用します。
ビーズやラインストーンは、浅草橋に行った際に大量購入するのがお気に入りです。地方の古い手芸屋さんに行ったとき、すでに廃盤になったようなレトロなビーズをみつけたときは買うようにして、自分の表現したい媒体の幅を広げることを意識しています。また、色や形など自分の作品に合いそうなものは予算が許す限り購入しています。
その材料はどのように使っていますか?
絵のアイディアに合わせて選んでいます。絵のポイントで使う場合もあるし、引き立てるために使うこともあります。
道具について
キャンバスの種類にこだわりはありますか?
キャンバスの種類や目の種類も色々試した結果、化繊混合の中目が縫いやすいため、主にそれを使っています。
他にこだわっている道具などはありますか?
「ぬいぐるみ針」です。
支持体としてキャンバスが定着してきたころに、新たな悩みがうまれたのは、キャンバスの端の木枠の部分が縫えないということでした。アイディア的にはトリミングされたものを表現したいのに、縫えないがために構想を変えなければならず、ストレスを感じていました。その場合は、支持体を布に戻し、布の張りと糸の張りっを微調整しながら、最終的に木製パネルに貼るというやり方をしましたが、トリミングしたいところがずれたり、糸が足りなかったり四苦八苦だったため続きませんでした。
そこで手芸屋さんをリサーチした結果見つけたのが、「ぬいぐるみ針」というものです。通常の針よりも長くて、キャンバスの端までさすことができるので、トリミングデザインも表現できるようになりました。
ぬいぐるみ針のお陰で木枠の部分にも刺繍を刺すことができ、現在は表現したいものができています。
サイドまで糸を縫うことができている作品
制作工程について
制作にとりかかる前に、準備することはありますか?
絵の具が乾いたらすぐに全ての作品の刺繍に取り掛かることができるように、 最初に数枚の作品の塗りをまとめてやってしまいます。
どのような手順で制作していきますか?
通常は、キャンバスにアクリル絵の具を塗ったあと、刺繍します。
ただ、濃い色の絵の具と薄い色の糸の組み合わせの場合は、刺繍をしたあとに周りを塗る場合もあります。最初に絵の具を塗ったほうが均一になりますが、濃い色の場合は、薄い色の糸に絵の具がついてしまうからです。
『素足』の制作にかかった時間はどれくらいですか?
小さい作品ですが、足の細胞は一粒ずつビーズで縫っているので、一週間はかかりました。
作品を制作しているときはどんなことが頭に浮かんでいますか?
頭に思い描いたとおりに形になっていくことが快感なので、そこからズレないことを意識しています。
その制作工程で、好きな作業はありますか?
自分のイメージにあった素材を選ぶときが究極に楽しいです。
制作の中でのこだわりは何ですか?
糸の隙間を均一にしながら、動きをだすことです。直線のストロークの方向で表現しています。
最後に
みんなが真似できる刺繍の楽しみ方はありますか?
以前ワークショップを開催したときに、お子さんがまだ針をうまく扱えなかったので、ラインストーンを布用の糊で貼って表現してもらったら、自由に楽しく制作してくれていました。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
現在は発表できる機会が減ったため、今は制作に使える時間と思い、沢山制作するようにしています。
ともすると悲惨なほうにばかり意識がもっていかれがちですが、その中でも心の潤いを思い出せるような作品を制作し、ニュースや世界情勢に操られることなく、自分の意識は自分で選択できるということを伝えたいと思っています。