11月29日(金)より開催する3人展「New Eden」に出展する久木田大地。久木田は、武蔵野美術大学油絵科に在籍中の注目の作家です。現代における古典絵画の需要や同一イメージが反復・並列されることによって生み出される視覚的な愉しさを表出することをテーマとする制作を続けています。創作のきっかけや歴史的・現代的なモチーフの選び方などをお聞きしました。
久木田大地 Daichi Kukita
2021 武蔵野美術大学 油絵学科 入学
2022 SOMPO美術館「FACE2023」入選
2023 銀座三越「ART FAIR GINZA 2023 tagboat×MITSUKOSHI」 GALLERY b. TOKYO「久木田大地 個展『Repetition』」
2024 美術紫水「Original Seven -新しい真摯さ Ver.1-」
+ART GALLERY「ARTS STUDENTS STARS vol.3」
2000年生まれ。武蔵野美術大学に入学後、西洋絵画の歴史と技法材料への興味をきっかけに、「現代社会において古典絵画がいかに受容されているか。」という事柄を念頭に置き、名画中のイメージを引用しながら、要素を反復する・ぼかす・組み換えるなどによって視覚的な愉しさを探っている。美術館のショップに大量に陳列される図録、海外の露店に並べられた色とりどりの名画のフィギュア、インターネットで名画を画像検索した際に等しいイメージが画面を埋め尽くす様子など、生活の中で古典絵画を目にする状況そのものからインスピレーションを得ている。
__作品をつくりはじめたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
デッサンに興味を持ち、初めて取り組んだのは15歳のときです。翌年、古めかしい物にカッコよさを覚える性格なうえ小学生の頃から理科が好きだった自分は、古典絵画が綿密な化学反応の上に成り立っていることを知って以降、油彩画の技法材料とその歴史の勉強に熱中していきます。神保町の古本屋街などに足繁く通い、絶版となった技法材料史の名著を集めていました。
実際に使用している画材
__アーティストを志したきっかけは何でしたか?
普段「美術作家」という肩書きを用いることが多いのですが、実はアーティストを目指したことはありません。新たな美術の歴史を見るため、鑑賞を通した皆さまのフィードバックを頂きながら、表現の土俵で実験と研究を行っている感覚を抱き続けています。
__作風が確立するまでの経緯を教えてください。
2021年の秋、はじめからずっと絵を描く行為そのものよりも絵画を観ることが好きであることに自覚を持ちました。そこで、それまで関心を寄せていた絵画の技法材料をめぐる試みに「絵画を観ることによって何が起きるか」という観点を加えながら表現の探究を始めることになります。客観的な意見や感想を得るため、2023年春に新宿のSOMPO美術館で開催された「FACE2023」にて作品を展示したことが作家活動のはじまりです。
『BABY BUOY』2022年 SOMPO美術館 FACE2023入選作品。
__作品における伝統的な要素や現代的な解釈について、どのようなバランスを意識していますか?
「画面上では古典的な技法や既視感のあるイメージがふんだんに用いられているのに、それを鑑賞して得られるのはギョッとするような目新しさ。」という塩梅を意識しています。引用された古典絵画は、画面を構成するための画材として機能するのです。
__アーティストステートメントについて教えてください。
プロフィールなどでは簡潔に「『現代社会において古典絵画がいかに受容されているか。』という事柄を念頭に置き、名画中のイメージを引用しながら、要素を反復する・ぼかす・組み換えるなどによって視覚的な驚きを探っている。」と述べることが多いですが「古典絵画を受容する環境が制作当時とは大きく変容したいま(殊更、21世紀の日本において)、それをめぐって形成された社会の美意識のようなものを観測しながら改めて作品という形で出力しているのではないか。」というのが最近の自身の制作に対する分析になります。
マスターピースの数々が印刷されたグッズの存在を知った後からオリジナルの絵画を肉眼で鑑賞した場合、鑑賞体験の”ずれ”のようなものが確実に起きると考えています。あるいは、人によってはインターネットで先に見た色相も彩度も違うガビガビの画質のそれが本物かもしれないのです。その”ずれ”を設計したいと考えています。
__作品はどのように制作していますか?技法について教えてください。
大学のそばに構えている自身のアトリエで本棚の本や画集を眺めるところから始まります。いろいろ読んでいるうちに、フッと頭の中で名画の一部分がトリミングされて反復する情景が浮かんでくるのです。はじめに、紙のコラージュやPhotoshopで簡易的に再現してみることが殆どです。
その画面構成がもたらす鑑賞体験を考えながら、ふさわしいサイズのパネルに綿布や麻布を張ったり白亜地を施します。次に、引用元が描かれた時代と地域や作品の完成イメージによって用いる技法材料を計画し、絵具を何層も重ねながら画面を構築していきます。乾燥を待つ時間が長いため、2~7作品程度をローテーションしながら同時並行で進めることが多いです。制作環境は常に整理整頓するようにしています。
ご自身のアトリエ
__歴史的・文化的なモチーフを選ぶ際の考え方や、その背景について教えてください。
鑑賞する際に「あ、これ有名な絵だ!」となるよりも先に、画面のリズムの面白さやポップさ、または奇妙さを真っ先に感じるよう、引用元を選んでいます。本来意味を持って造形された絵画の一部分が、純粋に視覚的な驚きをもたらすための要素として機能することが重要です。また、近年では有名な仏像がフィギュア化されて賛否を巻き起こすなど、仏教美術も受容のされ方が変わってきています。自身が西洋の古典絵画をめぐって試みていることと同じように扱うことできるかもしれないと考え始めました。
『Repetition_ヘントの祭壇画 03』2024年 sold out
__今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
前述で仏教美術について取り扱うことを聞いて「えっ、それっていいの?」と思った方がいるかもしれません。同じように、西洋の古典絵画を引用することによって引き込まれる意味性が生じることについて、宗教や美学、批評の歴史を踏まえながら考えていく必要があります。また、自身の作品によって古典的作品の鑑賞体験に”ずれ”が発生したとする場合、次の”ずらし方”が示唆されます。つまり、無限に次の作品が浮かび続けるのです。それらをどんどん制作していきたいと考えています。
__グループ展「New Eden」では、どのようなコンセプトで展示プランを構成されましたか?
「イメージを繰り返す」といっても、さまざまな反復のさせ方があります。まっさらな背景に並べた場合、引用元の絵画空間に並べた場合、並べたうえで立体にした場合、などなど。今回は制作の過程で誕生するコラージュ作品のシリーズのほか古典絵画以外を引用した初の試みとなる作品を併せ、展示タイトルの通り、新たな園に向かうための実験報告のような意識で構成しました。作品によってどのような印象の違いがあるかについて注目しながらご覧頂ければと思います。
久木田大地 Daichi Kukita |
「New Eden」
2024年11月29日(金) ~ 12月21日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日11月29日(金)は、17時オープンとなります。
※オープニングレセプション:11月29日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト秋山あいれ、岩岡純子、久木田大地によるグループ展「New Eden」を開催いたします。「New Eden」では、西洋絵画の伝統的な技法や具象的な表現を現代アートのコンテクストに落とし込みながら新しい表現を追求されているアーティスト3名の作品を展示いたします。