
2月20日(金)より個展『Eureka』を開催する新埜康平。 作家は、膠や和紙といった伝統的な日本画材を用いながら、自身の原体験であるストリートカルチャーや90年代映画の断片をサンプリングし、唯一無二の情景を描き出します。アトリエでのインタビューを通して、制作の裏側と今展への想いを伺いました。
新埜康平 Kohei Arano
東京生まれ。東京を拠点に活動し、展覧会などを中心に参加している。
ストリートカルチャーや映画の影響を受け、仮名の人物や情景、日々の生活に根差した等身大のイメージをモチーフに制作。余白やタギング(文字)の画面構成等、様々な絵画的要素を取り入れ、日本画×ストリートをテーマに制作。
第1回 Idemitsu Art Award(旧シェル美術賞)入選 /国立新美術館(2022)。第39回 上野の森美術館大賞展 入選/上野の森美術館(2021)。第56回 神奈川県美術展 入選/神奈川県民ホール(2021)。第16回 世界絵画大賞展 協賛社賞/東京都美術館(2020)。
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新埜さんは日本画の技法でストリートをモチーフに描かれていますが、そもそもなぜ「日本画」という表現を選ばれたのでしょうか。
きっかけは、カリフォルニアへスケートボードをしに行ったことでした。一度日本を離れて外から自分の国を眺めたとき、日本独自の文化や思想が非常に独特で魅力的なものに感じられたんです。そこから工芸品や思想に興味を持ち、深く調べるうちに「日本画」という表現に辿り着きました。

最初から日本画を目指していたわけではなかったのですね。
そうですね。大学(武蔵野美術大学)に入るまでは、ひたすらスケートボードやストリートカルチャーに没頭する毎日でした。美大で日本画の基礎や構図を学びましたが、自分の中にあるストリートの感性と、日本画をどうミックスしていくかについては、卒業後に自分自身で研究を重ねてきました。
一見、伝統的な日本画とストリートは遠い存在に思えますが
実は掘り下げていくほど共通点が多いんです。例えば、江戸時代の「琳派」も、お城に雇われた絵師ではなく、街の町人たちの手によって発展した文化です。作者不明の作品が多い点や、型紙を使う「ステンシル」のような技法が当時からあったことなど、現代のストリートアートとリンクする部分が非常に多い。僕の中では、この二つは決して遠いものではないんです。

作品の中で特に意識している「日本画らしさ」はありますか?
「マテリアル(素材)」と「余白」です。言葉で説明しなくても、画面から東洋美術的な思想や、想像を巡らせるための余白を感じてもらえるよう意識しています。また、銀箔や金箔といった、時間とともに変化し続ける自然物を使うことで、その瞬間、その時にしか生まれない「生(なま)感」を大切にしています。
具体的な技法について伺いたいのですが、ストリートならではの道具も使われているとか。
はい。かつてグラフィティをやっていた頃に使っていたボトルペン(マジックペン)を改造したものを使っています。その中に、日本画の伝統的な素材である膠や墨を入れて描くんです。

ストリートの道具に伝統的な画材を充填する……まさに融合ですね。
当時自分が身を置いていた文化の道具を、今こうして日本画の素材と組み合わせて使う。本物の素材と自分の原体験にあるイマジネーションを掛け合わせることで、自分にしかできない表現を追求しています。

新埜さんにとって、日本画の魅力とは何でしょうか。
先人たちが何百年もかけて受け継いできた「知恵」や「技術」の蓄積です。膠を煮込んで絵具を定着させるという一つの工程にも、多くの人の歴史が詰まっている。制作していると、その重みや充実感を強く感じます。そんな伝統の延長線上に、僕たちの世代の「日常」であるストリートの風景をのせていきたいと考えています。

新埜さんとtagboatの最初の接点は、2022年の「Independent Tokyo」でしたね。なぜ応募しようと思われたのですか?
実はその前の年に、一人のお客さんとして会場へ遊びに行っていたんです。その時に感じた熱気がとにかく凄くて。「人が集まるこの場所に、自分もぜひ出してみたい」と思ったのがきっかけでした。ありがたいことに審査員賞をいただき、そこからギャラリー様とのご縁や、海外のアートフェアへの出展など、活動の幅が大きく広がりました。

今回の個展では、どのような展示を計画されていますか?
今回の大きなテーマは「余白」と、それによって生まれる「イメージ」です。tagboatのギャラリーは天井高が5mもあるので、その空間を活かした大型作品はもちろん、平面と立体の間を行き来できるようなインスタレーションにも挑戦します。

具体的にはどのような仕掛けを?
僕の作品のモチーフによく登場する「小屋」を3Dで表現したり、古いナショナルのテレビを改造して映像を流したり……。平面作品の中にある世界が、実際に空間へ滲み出してきたような構成にしたいと考えています。
映像や立体だけでなく「匂い」についても意識されているとか。
はい。視覚や聴覚だけでなく、嗅覚も非常に重要な感覚だと思っています。例えばアトリエでは毎日お香を焚きますが、匂いという目に見えない要素が加わることで、感覚の広がりが生まれる。今回の展示でも、視覚以外の感覚を刺激する仕掛けを取り入れることで、鑑賞者がより深く「余白」を感じられる場所にしたいですね。
情報が溢れる現代において、制作に集中するために意識しているルーティンはありますか。
あまりSNSなどの外部情報は追わないようにしています。アトリエに来て、お香を焚き、膠を煮込む……。そういった毎日の変わらないルーティンを大切にしています。ネット上の誰かの思想よりも、家族や友人、地元の先輩といった「身近な人との関わり」から受ける影響の方が、僕にとっては遥かにリアルで大きいんです。

最後に、今後の展望とメッセージをお願いします。
実は、先のプランニングはあまりしないタイプなんです(笑)。とにかく「いい作品」を作ること。作品自体にどこか遠くへ連れて行ってくれるような強度があれば、自ずと世界中の人と繋がっていけると信じています。
2月20日(金)から個展「Eureka」を開催します!
「Eureka」
2026年2月20日(金) ~ 3月10日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日の2月20日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月20日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F