タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
作品制作にまつわるあれこれや、普段は聞けないようなお話などが満載です。
毎週更新していきますので、ぜひぜひご覧ください!
アーティスト 大谷陽一郎
小さいころから絵を描くのが好きでしたか?
絵を描くというより、何かを作ることが好きだったと思います。大阪の郊外で育ち、公園で友達と秘密基地作ったり、生き物が好きだったので昆虫や魚などの住処を作って育てるのが好きでした。後、レゴに夢中になった記憶があります。スポーツやテレビゲームも好きでした。特別絵が好きだったわけではありません。
美術の道に進むことになったキッカケは?
最初はデザイナーになろうと思っていました。実際にグラフィックデザイナーとして働いた経験もあるのですが、自分の興味があるもの、本や音楽、映画や食など、デザインができればいろんな分野に何かしら関わることができると思い、デザインの道に進みました。
実際はグラフィックデザインをやる中で文字に夢中になり、漢字に興味を持ち、漢字を使って絵を描くようになりました。今思えば当初の目的とは違う方向に進んでいますが、アーティストとして活動するきっかけになったのは『雨』という作品集を出版したことが大きいです。この作品集は雨という漢字の図像性に込められた畏怖のイメージを様々な雨を描くことによって解放するものでした。約1年かけて800枚描き、その中から70枚選んで作品集として構成しました。これ以降様々な展示に参加する機会をいただき、自分のやっていることがデザインではなく、アートとして位置付けられるようになり、その流れでアーティストとして活動するようになりました。
初めて作品を発表したのはいつ、どんなときか?
JAGDA(日本グラフィックデザイナー協会)の学生コンペでグランプリをもらった時の展示で初めて公の場で作品を発表しました。場所は六本木の東京ミッドタウン内にあるデザインハブです。このコンペの課題はJAPANというテーマでB2のポスターを作るというものでした。この時に作品集の中で描いた雨の元となる表現が生まれました。
日本は雨量の多い国です。雨のおかげで豊かな自然が形成された一方、ひとたび豪雨が降れば洪水や土砂崩れで住処を洗いさってしまう。全く雨が降らなければ作物は枯れ、人々は飢える。雨によって生死を境される。古代より日本人は雨に感覚を揺さぶられた民族だと思います。その雨への畏怖や祈りのイメージを漢字に込めて表現したのがこの時の受賞作です。二連で成る豪雨と小雨の双子のようなグラフィックを作りました。
制作する日はどのようなスケジュールで進めていますか?作品の制作手順など
基本的にデジタルとアナログの作業に別れます。アクリルやスプレーなど様々な画材で手を加えてキャンパスや木製パネルに、コンピュータ上で描いた何十万に及ぶ漢字を集積させて描いた図像を特殊なプリントやシルクスクリーンで定着させ、またそこにアクリルなどで調整していきます。コンピュータ、プリント、手彩と作業が別れるので、スケジュールはそれぞれかかる日数を念頭において進めます。
現在、力を入れて取り組んでいること、将来の夢、みんなに言いたいこと
現在東京藝大の博士課程に在籍しているのですが、今年の9月から中国美術と漢字の研究、中国語習得のため北京の清華大学に交換留学で来ています。このような漢字での表現を続けている動機は東アジアへの興味からです。東アジアで熟成されていった文化や思想、人々の感覚、それらの基盤にあるのが漢字ではないかと思っています。
ほとんどの文字が時を経るにつれて合理化され要素を失っていく中で、漢字は古代より数千年の時を経てもあまり要素をそぎ落とすことなく現代にまで至っています。古代の人々が感じた自然の風景、音の響き、祈りのイメージを保存しています。
漢字は現代でも膨大な人々に使われ続けています。漢字文化圏の人同士であれば言葉は通じなくとも、漢字の図像性、意味性によってイメージを共有することできます。私はこの東アジア独自の知覚のあり方は財産だと思っています。古代より生まれた文字に込められた感覚使って、現代を生きる異なる地域の人々と思考交わすことができる。私は漢字に込められたエネルギーを解放し、絵であり一枚の詩のような東アジアの人々の感覚に共鳴するような作品を制作することを目指しています。
1990 大阪生まれ
2015 桑沢デザイン研究所卒業
2018 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
Book
2017 『雨』(リトルモア)