アート界のクリーム王子と呼ばれるほど、独自の技法によるフェイククリームアートで人気を集める渡辺おさむ。
作家として生計をたてるのは難しいと言われる現代社会において、若干35歳ながら見事に作家としての地位を築き、また更なる活躍の場を広げている1人だ。
そんな渡辺を見ていると、今までの道のりはさぞ順風満帆なものだったに違いないと思うが、そうではなく、全ての経験を自らの糧に転換していったからこそ勝ち得た現在なのである。
そもそも、何故渡辺は多方面で活躍できているのか。その問いを投げると意外な答えが返ってきた。
「どこのギャラリーにも所属する事ができなかったから、自らプロデュースし販路を作っていくしかなかった。」と渡辺は言った。美大卒業後、一度は就職したもののやはり作家として生きていく事を決意し退社。貯金し、制作だけに打ち込む時間を1年間作った。
本格的に作家を目指すまでの不遇が原動力となり、後に大きな転機をたぐり寄せる事になったのである。
まず大きな転機となったのが、2008年に六本木でのグループ展に参加した際、台湾のギャラリストが作品を全て購入してくれた事。それが北京での個展へとつながり、後の海外展開に大きく発展していったのである。
大原美術館での個展も大きな1つの転機と言っていいであろう。作品が他の美術関係者の目に留まった事で同年の清須市はるひ美術館での個展へとつながり、そこで美術館開館以来最高の入場者数を記録するなど興業的にも大成功を収め、全国各地の美術館での展覧会につながっていったのである。
いただいた話は断らずとにかく全力で取り組むという渡辺の真摯な姿勢が、作家として更なる展開を生んだ。
作家としての新たな展開、それは自身の作品をグッズ化し販売していく事であった。ちょうど美術館での展覧会中に、メーカーから声がかかったのである。グッズは数十種のアイテムを越える文具を始め、フレグランス・扇子・食器など、実に幅広い。
その他、大手百貨店向けの広告やフェイククリームアートの書籍の出版など、多種多様なメディアを通して作品のプロデュースを展開するまでに至っている。
更には、テレビ出演や自身のスイーツデコ技法を伝授するためのワークショップを定期開催するなど、その活動は留まる事を知らない。誰もが参加できるワークショップの開催や、テレビ・広告・グッズ・書籍など日常に行き渡っているメディアによって、いわゆるアートラバーだけでない人たちにも渡辺おさむという作家を知ってもらうと共に、アートに興味を持ってもらう事ができた。まさに渡辺独自の方法で、多くのファンを得る事ができたのである。
作品を購入してくれたお客様には必ず直筆の手紙を同封。細やかな対応はこれまでも徹底してきている。ワークショップに参加するファンに対しても個別に丁寧に指導するなど、彼にファンがついて離れない理由がよく分かる。また今年の夏には渡辺おさむファンサイトも開設し、ファンサービスはますます充実度を増すばかりだ。
作家活動とは、オリジナル作品を制作し発表する事と捉えられがちだが、実はそこに限られない事を渡辺が証明している。自身の作品の魅力をよく知り、どのような手段でどう発信していくかを見極める事が重要であり、これが効果的なセルフプロデュースを生み出していくのである。またギャラリーに所属し、展覧会やアートフェアで作品を売買する事だけが手段では無いのだ。
最初は手探りかもしれないが、プロの作家として活躍したいという強い信念のもとひた向きに活動する事がチャンスを生み出し、そのチャンスを自らの方法で掴む事が、予想していなかった展開を生み出すのかもしれない。
2015年冬、新たに書籍を出版する渡辺おさむだが、今後もどのような方法で自己をプロデュースし多くの人を魅了していくのか、これからもますます目が離せない。