銀座の老舗画廊「日動画廊」の現代美術部門として誕生したギャラリー。
オーナー長谷川暁子氏に聞く現代美術の魅力とは。
1928年に創業の日動画廊は、日本で最も歴史のある洋画商として名高い銀座の老舗画廊だ。同時に、古い歴史があるからこそ、常に新しいことに挑戦し、日 本の美術界に新風を送り込んできた存在でもある。
その大きな新風の一つが2001年に設立された日動画廊の現代美術部門「nca | nichido contemporary art」(以下、nca)の誕生だ。主にペインティングを取り扱う日動画廊に対し、写真や映像、インスタレーションなど、当時新たなメディアとして登場し てきた先駆的なアートを取り扱う分野として始まった。
しかし、強力な後ろ盾はあるものの、開廊当時は写真がアートとして、ビデオアートがコレ クションの対象として、まだまだ認知されてはいなかった。客層も日動画廊とは全く異なるため、全くゼロからのスタートだったと語るのは、ncaのオーナー であり、歴史ある家業を受け継ぐ長谷川暁子氏。
「祖父が西洋の文化を初めて日本に持ちこんだ時、「油絵」と言っても「油売り」と勘違いされたくらい当時の 日本で油絵を知る人はほとんどいませんでした。そういった意味では、写真やビデオアートがまだ浸透していないのであれば、そういうものを広げて行くのが ncaの使命だと感じました。」扱う分野は異なるものの、創業以来の変わらぬ開拓者精神で、アートの新時代を見据えていたのだ。
もちろん、最初 は手探りだったというが、ヴィック・ムニーズやジャン=リュック・モーマンなど海外では有名であるにも関わらず、日本ではあまり知られていないアーティス トを積極的に紹介し、日本の現代美術の裾野を広げてきた。
訪れた日は、ちょうど「identity IX -curated by Reiko Tsubaki-」展が開催中であった。ガラスケースに入れられた本物の蛇や謎の液体が詰められた瓶が並び、まるで生物実 験室にでも足を踏み入れたかのような刺激的な作品が集う。しかし、一点一点作品の説明を聞くと、なるほどと納得させられ、さらに興味を惹かれる作品ばかり だ。
「現代美術は“知的な遊園地”。一見、わけが分からないものでも頭を使って理解しようとする。そこが面白いんです。近代美術はリラックスさせてくれ、 現代美術は刺激を与えてくれる。どちらも美術にとって重要な要素だと思います。」近代美術と現代美術、両分野に精通する長谷川氏はそれぞれの魅力について そう語った上でこう続ける。
「日本と異なり、欧米のギャラリーでは、近代美術と現代美術の間に垣根はありません。ニューヨークで印象派を取り扱うギャラ リーが現代美術も扱うことはごく一般的です。また、両分野を収集しているコレクターも多くいます。私たちの活動を通じて日本人の意識も変えていけたらと 願っ ています。」
台湾で開催されるアートフェア「ART TAIPEI」では、日動画廊と共に参加し、両分野の美術を一つのブースで見せるという展示を行っている。また、年末には4号以下の名品を集めた日動画廊 の恒例企画「ミニヨン展」と連携し、「small works展」を開催予定。老舗画廊ならではの楽しみを提供してくれるのも、この現代美術ギャラリーの大きな魅力の一つだ。
現在、大学で講師も務めている長谷川氏は、たとえ学生に対してでも将来コレクターになることを大前提として話をするという。それは、早い段階から種をま き、美術業界のパイそのものを広げていく重要性を感じているからだという。
「近代美術が国内のマーケットに向いているのに対し、現代美術は海外に向けら れ、よりオープンで広がりがある。
国内のマーケットを開拓してきた日動画廊に対し、現代美術部門として今後も海外へ積極的に出て行き、美術業界のパイを大 きくしていきたい。」80年以上にわたり続いてきた画廊の歴史にncaはどんな足跡を刻んでいくのか。今後の展開にも期待が高まる。
nca | nichido contemporary art
www.nca-g.com
東京都中央区八丁堀 4–3–3 B1 T. 03–3555–2140
11:00 –19:00 休廊日|日・月・祝日