リチャード・ハミルトン、デイヴィッド・ホックニー、ルシアン・フロイド…
未開拓の分野であった英国の現代美術を日本で初めて紹介。
日本の現代美術界のパイオニア、西村建治氏が語る38年間に及ぶ画廊人生。
英国の現代美術が、まだ、日本ではそれほど知られていなかった時代。今となっては信じられない話だが、戦後、ポップアート発祥の地であるイギリスの現代美術は、1970年頃の日本ではほとんど知るものはいなかった。
開廊前に、半年間ヨーロッパを視察旅行した西村建治氏は、日本では未開の領域であったその分野にこそ、自分ができることがあると確信し、1974年に西村画廊をオープンした。そして、リチャード・ハミルトン、デイヴィッド・ホックニー、ピーター・ブレイク、ルシアン・フロイドら、英国現代美術の中軸となっていく作家たちを日本で次々と紹介していく。
「70・80年代は海外に面白い作家がたくさんいて、まだ評価なんか定まっていなくても展覧会をしてみたいと思うことがたくさんありました。
一方、現代の風潮として、観客に何が受けるかということばかりにこだわっているように感じられます。当時は、そういう考え方は全くなかった。たとえば、ハミルトンが難解とされている20世紀を代表する小説、アイルランド作家ジェイムズ・ジョイスによる『ユリシーズ』をテーマにした展覧会を開催したことがあります。これは、観客受けをねらってやっていたら決してできない展覧会だったと思います」
結果的に、ハミルトンの「ユリシーズ」は、20枚セットのポートフォリオが神奈川県立近代美術館に収蔵され、その他の作品もほとんどが売却された。
時にセンセーショナルで挑戦的な展覧会を繰り広げる西村画廊は、世界の最先端のアートに触れられる場として評判を呼んだ。展覧会のオープニング・レセプションには、作家、文学者、美術評論家など毎回、刺激的な人々が集まり、さながらサロンのような場として独特の熱気を帯びていたという。
西村画廊では、外国人作家だけではなく、開廊当初から国内作家の紹介にも力を注いできた。中でも、日本を代表する彫刻家、舟越桂はほぼ無名の時代から画 廊とともに歩んできた作家だ。西村画廊での初の個展は、1985年に遡る。初個展にも関わらず、展覧会は好評を博し7体全ての作品が完売した。
その翌年に は、文化庁芸術家在外研修員として1年間ロンドンに滞在、その後もベニス・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレ、ドクメンタと3年の間に立て続けに国 際展に参加、一躍日本を代表する現代美術家へと成長した。「外国の場合は画廊の存在が大きく、作家とディーラーの関係も日本と微妙に違う。パリの画商カー ンワイラーがピカソやマティスなど20世紀を代表するスターをつくり上げてきたように、画商は何かをつくりだす力を持っている。そういった意味で、舟越桂 は西村画廊がゼロから生み出した初めての作家といえます」。
その後も三沢厚彦、町田久美、小林孝亘、押江千衣子など、気鋭作家のプロデュースを積極的に行い、人気作家を次々と生み出している。ちなみに最近注目の 新進作家は、指田菜穂子だという。「百科辞典」を引くと出てくる一つの単語をテーマに、それに関わる事柄を網羅的に集め、ひとつの画面に表す。カラフルで 緻密な描写の中に知的好奇心をくすぐる楽しさが詰まった作品だ。
訪問した日は、ちょうど「西村画廊コレクション展」が開催されていた。舟越桂、アニッシュ・カ プーア、横尾忠則など著名作家のミュージアムピースともいうべき大作とともに、若手作家の作品が並んでいる。まさに38年にわたる西村画廊の歴史を一望す るような展示だ。日本の現代美術界のパイオニアとして威厳を感じると同時に、未だ新しい刺激を与え続けてくれる画廊である。
『西村画廊35年+』
定価:3,500円(税抜) 2012年6月15日発行
発行所:株式会社求龍堂
西村画廊の軌跡とともに著名作家たちの初期の展覧会など、日本の現代美術界の歴史も知ることができる貴重な1冊。当時の写真も含め、膨大なビジュアルとともに楽しめる。
西村画廊
www.nishimura-gallery.com
東京都中央区日本橋 2–10–8 日本橋日光ビル 9F
T. 03–5203–2800
10:30–18:30 休廊日|日・月・祝
[次回の展覧会]
町田久美 新作展
5月7日[火]–6月15日[土]