日本の現代アートにおける最大の問題は売買のマーケットが極端に小さいことである。
欧米より小さいことは既知の事実であるが、周辺のアジア各国と比較しても明らかに脆弱なマーケットとなっている。
先進国の一角を占め、プチ富裕層の数も決して少なくはない世界第三位の経済大国である日本。長い歴史と文化、四季のある素晴らしい自然に育まれるこの国においてだけ、なぜか現代アートの市場規模が不思議なくらいに小さいのである。
そこには何かが隠されているのではないかと勘ぐるくらい、日本人は現代アートを購入することに興味を持つ者が少ない。
日本のアートの市場の小ささはある意味で海外から見ると「異常」だと思って間違いない。
時代が平成に入ってバブルが崩壊する直前には日本のアート市場は1兆円あったとも言われており、多くの土地や株で儲かった人たちが欧米のアート作品を買っていた時期があった。
日本人は決してアートを買わない、興味を持たない国民なのではなく、何かをきっかけにアートに対するものの見方が他の国とはあきらかに違うようになったのだ。
そこでタグボートは日本のアート市場が持つ構造的な問題点を分析することがまず重要であると考えた。
そのためには、欧米、特に米国の市場と比べた場合にどこが最も特徴的に違うのかを徹底的に調べ、日本人が現代アートを買わない理由が何かをつきとめる必要があると感じた。
2017年に入って、シンガポール、香港、台北2回に加えニューヨークに3回訪問し現地のアート事情のヒアリングを十分に行ったうえで日本とは明らかに違うことがいくつか分かってきた。
その中で最も重要なことを一言でいうと、日本の現代アートは「交換価値」が乏しいということである。
交換価値とは購入後にセカンダリー市場である一定の金額では交換できるという意味である。交換価値は信用を生み、資産となりえる。
しかしながら、日本の現代アートは草間彌生、奈良美智、具体美術の作家、モノ派などの一部を除いて、セカンダリー市場にはほとんど出てきていないという問題がある。
ゆえに、交換価値がないアートを買うのはリスクが高すぎて、売れないというジレンマに陥っているのである。
<続く>
第二話は「日本の現代アートのセカンダリー市場」