アートの枠にとらわれず、マルチメディアに活躍するアーティストたちを紹介。
オーナー南塚真史氏に聞くギャラリーの目指す先とは。
渋谷の新たなランドマーク「渋谷ヒカリエ」を通り抜けてすぐ、とあるビルの地下スペースに「NANZUKA」はある。サブカルチャーの発信地、渋谷という 地に相応しく、グラフィックやファッションといった要素を含みファインアートの境界線を問うような ラインナップが特徴のギャラリーだ。
オーナーである南塚真史氏は、早稲田大学で美術史を学び、修士にまで進んだにも関わらず、ファインアートには全くこだ わっていないときっぱり語る。「美術史は歴史ありきで、現在、生きている作家は研究の対 象外。
では、現在進行形の美術をビジネス面でサポートしたり、記録したりするのは一体誰なのか。
それがギャラリーの仕事だと気づいた」。既存の美術史や美 術教育のあり方に疑問を感じていた南塚氏は、2005年大学卒業後、メディアレイピスト宇川直宏、アーティスト集団『他社比社』とともに、アーティストス タジオ、ギャラリー、クラブが一体化したオルタナティブなスペースを設立する。「人がやらないことをやる。人が扱わない作家を扱う。」
その二つを基本スタ ンスにアートの枠組みにとらわれず、クロスジャンルに活躍するアーティストを発表してきた。
仲間との勢いで始めたギャラリーは、その独特のスタンスから強い個性を帯びるようになり、次第に本格的な活動へと進化していく。その拍車ともなったのが、 現代美術家、田名網敬一との出会いだ。
「グラフィックデザイン、映像作品、ファインアートなど一つのメディアに限定せず、様々な方法を表現手段として用い る。おそらく日本で最初にオルタナティブなポジションで活動を始めたアーティストではないでしょうか」。
兼ねてより、田名網の熱烈なファンであった南塚氏 は足繁くアトリエに通い、ついに作品の取扱いへとこぎ着けた。そして、田名網の作品を引っさげて、2007、2008年と立て続けに上海、香港のアート フェアへ参加。アート好況の波に乗り、作品の売れ行きも好調だった。しかし、目指していたマーケットはアジアではなく、あくまでもヨーロッパにあったとい う。「田名網敬一は、歴史的にきちんと俯瞰で評価しないとア-ティストの全体像や重要性が見えてこない。
そのような価値観で美術を評価する軸を持っている のは、ヨーロッパだと思っていました」。そして、その狙いも時を経ずして、現実のものとなる。アートフェア中、フェアのコミッティーを務めた著名ギャラリ スト、ピエール・フベール氏と、偶然隣り合わせたドイツのギャラリー、リーマンが共に田名網の作品に興味を持ち、それが縁で2008年には、ジュネーブと ベルリンで田名網の個展が実現した。
2010年にはロンドンのFrieze Art Fair、2011年にはArt Baselにも田名網の個展で出展し、現在では数多くの海外のギャラリーと仕事をしている。ギャラリーの成長に対し、田名網敬一の実力ですと答える南塚 氏。もちろん、時代の追い風もあったにせよ、その流れを確実に自分の側に引き寄せる強い吸引力の持ち主だ。
ギャラリーの活動が本格化してきた2009年、国内のアートシーンの最前線に身を置くため、トップギャラリーが入居する白金アートコンプレックスに移転し た。
しかし、そこで改めて「NANZUKA」の本筋を見つめ直し、2012年には、再び渋谷の地に舞い戻る。「白金と渋谷では、客層が全く異なります。白 金では、美術関係者やコレクターが多い一方、渋谷は場所柄、多彩な人々が集います。
アートマーケットをメジャーなものにして いくには、まず見せていくことが大事。アクセスもよい渋谷という地で、大衆を巻き込んでいくことがギャラリーの性格に合っていると思いました」。
今年5月 には、AISHO MIURA ARTSとともに香港にAISHONANZUKAをオープン。香港を拠点により国際的なアプローチをしていきたいと語る。一方で、日本の中堅アーティスト を育てていく重要性も説く。「次世代のアートシーンを支える中堅アーティストが日本にはあまりに少ない。
国際的な評価を得るためには、海外のアートシーン で語られている言葉で自分を表現できることが重要。若いアーティストには積極的に海外に出るよう勧めています」。グローバルスタンダードで活躍する若き ギャラリストが、日本のアーティストをどう世界の舞台へと導いてくれるのか。新たなステージの幕開けに期待したい。
NANZUKA
http://nug.jp/
東京都渋谷区渋谷 2–17–3 渋谷アイビスビル B1F
T. 03–3400–0075 11:00–19:00 日月祝定休