「アートのコレクションをはじめて30年が経ちますが、その歴史10年を区切りとして3つに分けられます。最初の10年は20代に仙台で勤務していた頃で、ちょうど役職が上がって金銭的に余裕ができたので、荻須高徳の版画を購入したことがきっかけです。当時は妻が気に入ったこともあり、衝動買いをしてしまったのですが、その後1年ほどして東京に戻ってから本格的に画廊めぐりをするようになりました。銀座の画廊でリリシズムのある作品を中心に泰西名画、洋画、日本画を買っていました。
次の10年は、中国人作家の牛波(Niu Bo)をメインに収集していた時期です。飛行機雲で描く大空絵画といったスケールの大きな作品を見にニューヨークまで行ったこともあり、ほとんど「追っかけ」でしたね(笑)。その後、牛波は本、映画などへと多彩な才能を発揮する中でアート作品の制作から離れていくと同時に、追っかけからも離れていきました。そして最近の10年では日本人の若手作家の作品購入がメインとなりました。すでに有名な作家を買うのではなく、ミヅマアートギャラリー、オオタファインアーツ、小山登美夫ギャラリーなどから新進作家を買い始めました。ほとんどは20代の作家であり、それまで持っていた作品を売って若手作品の購入に充てたこともあります。」
6年前に辞めた会社の退職金のほとんどをアートにつぎこんだ経験もある藤本さんですが、思わず買ってしまう作品としては、人物系が多いとのこと。オリジナリティがあり、デフォルメされてインパクトが強く出ている作品、作家が伝えたいメッセージがあり、それをもっと知りたいと思うときに、我慢ができず即決で購入してしまうようです。また単に買うだけでなく、作家が方向性を失い道に迷いそうなときにはアドバイスをしたりすることもあります。作家とのコミュニケーションは楽しいし、面倒をみたいと思ってしまうようです。
(編集部:若手作家に対する藤本さんからのメッセージはありますか?)
「価格を上げることをあまり意識せずに、まずは多くの人に作品を持ってもらうことを考えてほしいですね。もちろん作品のオリジナリティの追求は大事ですし、自身を認めてもらうためにはどうすべきかをもっと考えなければなりません。売れなくても骨太の作家になるために、若いときから大志を抱いて欲しいですね。」
アートのコレクションによって色んな人と知り合い、共通の趣味を通して長く付き合えることが人生の楽しみだと語る藤本さんはアートの醍醐味を知っているまさに「達人」です。