小野海は2022年に東京藝術大学大学院 彫刻専攻を修了したばかりの彫刻作家。アクリル毛糸を使った作品〈Prism Series〉を展開し、大学院修了制作として巨大な彫刻作品〈Prism-Aureola〉を展示し注目を集めました。
幼少期から現在に至るまで、その制作活動の変遷と思いについて伺いしました。
小野 海 Kai Ono |
ー制作を始めたのはいつ頃ですか?きっかけはありましたか?
自分の手でモノを作るという行為は幼い頃からの習慣でした。両親がとにかく絵を描く画材や粘土をたくさん与えてくれていたので、ひたすら毎日それで遊んでいました。特に油粘土に夢中になっていて、その時はまだ彫刻という意識はもちろんなくて“一人遊び”として没頭していました。あの頃が人生で一番制作していたと思います(笑)
ーアーティストを目指そうと思ったのはいつ頃ですか?きっかけはなんですか?
本格的に彫刻を作りはじめたのは高校からです。もともと立体造形が好きだったこともあって美術高校で彫刻専攻を選びました。高校生の自分には彫刻は他の分野に比べてシンプルな様に感じられて、テクニックが通じないことに魅力を感じました。当時、油絵も描いていたのですが、画面の中の架空の表現よりやはり直接見て触れて確かめられる彫刻に惹かれましたね。
ー作風が確立するまでの経緯を教えてください。
大学に入学してしばらくの間は主に塑像で動物をモチーフに具象的な彫刻を制作していました。野生に生きる動物本来の姿ではなく、人間の近くにいる動物が持つ違和感に注目して制作していました。いろいろ感じながらそれらを伝えようと必死に制作していたのですが、動物をモチーフにしているとどうしても作品の見え方を限定してしまっている様に感じて、当時の自分では動物の形を使って表現することに限界を感じました。そこからもっと作品の伝わり方の幅を広げようといろいろ試す中で、形も素材も変わってゆき現在のアクリル毛糸を使った作品になりました。
〈ないものねだりの姿〉
テラコッタ, 全長120㎝
ー作品を発表し始めたのは何時頃ですか?発表するまでにどういった経緯がありましたか?
作品を発表したことはまだほとんどありません。学部3年時からアクリル毛糸を素材とした現在の「Prism series」を4年間制作しており、今年の3月に東京藝術大学の大学院を修了したのですが、その時の修了展で発表した作品(Prism-Aureola)を見てタグボートから声をかけていただけて、今回の「CORE part8」に参加させていただくに至ります。
〈Prism-Aureola〉
アクリル毛糸、ステンレスメッシュ、ジェスモナイト、発泡スチロール, 500×460×460cm
ーアーティストステートメントについて語ってください。
私は“時間”というものを偉大な存在だと思っています。しかしながら、人は暮らしを豊かにする発展の過程で、時間を短縮する能力を磨いてきました。移動、労働、生産、成長、生と死など、あらゆる時間に自在に手を加えています。ときには違う種の生命にも影響を与えています。昨今では彫刻ですら機械を使ってボタン1つで複製できます。
対して自然は大きなサイクルの中で動いており、時間を省略することはありません。私は自分が生きる中で感じる「人と時間の交錯点」、そこにある歪みや違和感を彫刻として表現しようと試みています。
ー作品はどうやって作っていますか?技法について教えてください。
原型となる形を金網や樹脂を用いて制作しています。この段階ではまだ作品の見え方は何となくしかない状態です。形の詳細が決定してから制作し始めるのではなく、サイズや構成のイメージなど大枠が決まっているだけで、作りながら形が決まっていきます。その上から一本ずつ手作業で毛糸を接着しています。
ー作品制作で困難な点や苦労する点を教えてください。
とにかく時間がかかることですね。全て1人で一本ずつ手作業で接着していくのでかなり地道な作業です。しかしこれはあえてそういう制作スタイルを選んでいるので、困難なことではないです。
自分が生み出す彫刻の形を一度くまなく自分が触ることによって、その作品に対する実感が自分の中で生まれます。
ー今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
彫刻の最大の可能性はその空間にあると考えています。彫刻が纏う気配や支配する領域は空間に影響を与え、その質量の外側までを巻き込みながらその彫刻の空間を決定していきます。その存在を身体を伴って体感できることが彫刻の魅力です。昨今、生活する中でインプットする情報の大半は画面や画像を通して得る二次的なものです。そんな現代だからこそ直接見て触れて実感を得られる彫刻の存在意義は強まっています。作る私と見にきてくれる人、双方の時間が交錯する点にある存在。そんな彫刻を生み出していきたいと思います。
〈Prism-Aureola〉部分
小野海・三塚新司「curve」
2023年2月10日(金) ~ 2月25日(土)
*2月11日(土)は祝日のため休廊いたします。お越しの際はご注意ください
営業時間:11:00-19:00(休廊日:日月祝)
*オープニングレセプション:2月10日(金)18:00より
入場無料・予約不要
どなたでもご参加いただけます
会場:tagboat NINGYOCHO
〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
このたび、株式会社タグボートは東京都中央区の人形町に新ギャラリーをオープンいたします。オフィスとギャラリーが併設された新たなアートスポットは天井高約5メートルの圧巻のスペースです。これまではできなかったような大空間を用いた展示で、皆様に新しい驚きや発見をお届けいたします。
こけら落としは小野海と三塚新司の二人展「curve」です。
小野海はアクリル毛糸を使った作品〈Prism Series〉のうち、在学時の卒業制作展で発表した高さ約270㎝の巨大な彫刻作品「Prism-Raibow Mountain」を展示いたします。
三塚新司は2022年に岡本太郎現代芸術賞展の岡本敏子賞及びオーディエンス賞受賞した「Slapstick」を展示いたします。高さ約250㎝、幅約650㎝の巨大なバナナの作品です。2つの作品のユニークな曲線が織りなす大迫力の展示を、ぜひ会場でご高覧ください。
小野 海 Kai Ono |
1995 兵庫県生まれ
2019 東京藝術大学美術学部 彫刻専攻卒業
2022 東京藝術大学大学院 彫刻専攻修了
高校在学時から石膏、テラコッタ、FRP、紙など作品ごとのテーマに合わせた様々な素材を使って彫刻を制作。東京藝術大学入学後は“意図して生み出されたモノの中にある美しさと違和感の混在”をテーマに、主に人の暮らしに関わる動物をモチーフとした塑像による具象彫刻を制作。その後、素材の幅をさらに広げアクリル毛糸を使った作品〈Prism Series〉を展開。学部卒業時に制作した視覚効果を用い、錯覚を引き起こすことで立体が平面に見える作品〈Prism-Rainbow Mountain〉。日常生活の中で自然と人が交わる瞬間に着目し制作した巨大な彫刻で大学院修了制作である〈Prism-Aureola〉などを制作してきた。SNS・メディア社会における彫刻の新たな可能性を自然科学の観点や錯視効果などを用いながら研究している。