2022年3月に阪急メンズ東京tagboatでの個展「Stand Up」を予定している深澤雄太。
同じく3月は同じく阪急メンズ東京7階と1階Main Baseで同時開催予定のグループ展「TAGBOAT ART SHOW」、そしてtagboat Art Fair 2022 への参加を予定している。
複数の展覧会に向けて準備中の深澤雄太さんのアトリエで、実際に作品を描いていただきながら、制作の意図や目標について詳しく伺った。
インタビュー・撮影:高橋佳寿美・寺内奈乃 テキスト:寺内奈乃
ー光がたくさん入るアトリエですね。
今までのアトリエはここより暗い、洞窟みたいな部屋だったのですが、二面採光のアトリエに引っ越して、光が入るようになりました。
それによって、光に負けないことを意識して描けるようになりました。暗い部屋で描いていても、結局展示するギャラリーの空間は明るいので、かなり良い変化でした。
アトリエの環境が変わって、色味の調整はしやくすなりました。夜になると色味が濃く見えて、厚塗りがしづらいので、より厚みの表現に敏感になりましたね。
ー深澤さんは朝型ですか?
そうですね、朝のうちに描きます。
以前は夜に描いているときもありましたが、冬はすぐに暗くなるし寒いですし、ベストな状態で制作できるのはやっぱり朝です。
ー深澤さんの制作にはルーティーンはあるのでしょうか?
25分描いては5分休む、というのを1セットにして繰り返しています。
朝起きて、描き始めて、夕方頃まで続けます。集中力が途切れてしまうので、朝食や昼食は食べないことが多いですね。
描くときは頭を真っ白にして、とにかく没入して描いています。
正直に言うと描き始めはかなり緊張します。描きだしの一筆が、そのあとのテンションを決めてしまいますから。だから必ず少しリフレッシュして「次はどういうふうに描こう」と考える時間をとります。それが制作中のルーティーンになっています。でも、1回描き始めてしまえば、25分の1セットはあっという間ですね。
ー絵具の種類がたくさんありますね。
一見同じ色に見えても、実は3~4種類の絵具を使い分けています。
例えば透明色といって、塗っても下の色が透ける絵具があります。逆に不透明色といって、塗ると下に描いた色を覆い隠す「隠ぺい力」が強い色もあります。
描く段階によって、同じ色でも複数の種類が必要になります。
ー1枚の作品でもかなりの量を使いそうですね。
下地に使う、シルバーホワイトの絵の具を一番使います。
僕の絵の場合はかなり凹凸のあるマチエールなので、下地に使う絵具も重要です。盛った厚みを保持した仕上がりにならないと、中が空洞になってへこんでしまい、乾いたときに凹凸が変わってきてしまうので。
絵具を持ってみてください。
ー思っていたよりずっと重いですね。
そうなんです。このシルバーホワイトの絵具には鉛が入っています。
この重さをひとつの作品で4~5本使うこともあるので、キャンバスの重さは描く前と後では全く違いますね。
アクリルとは違う油絵具のこの重さが、個人的には好きなんです。
ー写真と見比べながら描いていますが、実際の作品は色合いがかなり違いますね。
全く何も見ないで描くと、自分の中のルールがなくなって、なんでもありになってしまいます。ですから写真を見ながら描くことで「今、自分はこれを描いている」という意識を持つことができます。
でも、あまり写真は見すぎないようにしてます。例えば「木」なら、ある程度「木」に見えればそれでいいんです。固定観念を壊しながら、絵の上で表現しています。いざ描くときは「木」だと思わないようにして描いています。バランス感覚が大事です。
ー先ほど、描くときは「頭を真っ白にして、没入して描く」と仰っていました。でも、制作の準備段階では、描くモチーフの取材をしたり、画材を使い分けたりするなど、意識的に考える場面がほとんどだと思います。意識と無意識の使い分けはどのように行っていますか。
人間、考えながら体を動かすのは難しいですよね。単純作業でも、考えながらやるとあまり早くはできないと思います。
でも、普段から頭の中で考え、シミュレーションすることが、次の行動につながると思っています。寝てる時も、起きているときも、無意識にこそ全てが現れてくると思うんです。
頭の中で常日頃考えて、身体に染みついているからこそ、キャンバスに向き合い頭の中を真っ白にしても、衝動的に描いても、自然とその「普段考えていたこと」が出てくるんですよね。「頭を真っ白にする」というのはそういう感覚です。
ー個展に向けて描いている作品は、主にどこの風景を描いていますか?
一昨年、引っ越しまして、自分が生まれ育った場所から少しだけ離れました。
引っ越した後に「ここがどういう土地なのか」ということを知るために近隣を散策して、自分の足で見つけていった風景を描いています。新しい場所で何が描けるのかに挑戦したかったんです。
ー引っ越しをされて、心境の変化はありましたか?
慣れないうちはその場所のこともあまり分かっていなかったので、絵もなかなか完成しなかったですが、慣れてきてからは明らかに筆が乗るようになりましたね。その落ち着いてきた状態こそが心境の変化です。
自分自身が変わったっていう実感は無かったんですけど、新しい場所に引っ越して約一年が経ち、当初の自分は全く慣れてなかったんだな、ということに後から気づきました。変わったところが無いつもりでも、実は自分はまだ馴染んでいなかった、と再認識したんです。
ー以前は、アーティストインレジデンスなどで中国や豊島に行かれていましたね。普段はなじみのない場所に行くと、どういった変化が起こりますか?
やっぱり「気分転換」ですよね。同じ場所にとどまっていると、比較ができないですから。
「中国はこうだったな、島での生活はこうだったな」という「違いの体験」みたいなものが、気分転換にもなるし、新しい作品の捉え方ができ、変化・進化します。それはとても大事なことだと思ってます。
ー知っている人がいるなど、何か縁のある場所は、深澤さんにとって特別な風景になりますか?
誰か知っている人が関わる場所であるとか、そういったストーリーがあるほうが無意識に「描きたい」と思っているかもしれません。
やっぱりそれは僕にとって「心の動き」になります。一人で行動したら一人だけの心の動きになりますが、誰か友人や他人がかかわることによって、心の振れ幅が生まれると思うんです。そういう状況は僕にとって描きたいものになります。
ー今回の個展「Stand Up」はどのような展示になりそうですか?
今までの自分が表現してきたことは継承しながらも、殻を破っていこうと思っています。
自分の普段の制作スタイルや制約を一度すべて取っ払って、挑戦していきたいです。
もっと大胆に言うと「しでかしてやろう」と思ってます(笑)
ー例えば、どんなことですか?
「賛否両論」を生むかもしれないことをやりたいです。どういう風に受け取っていただけるかな、ということは不安なんですけど、自分にとって「良い作品だ」と胸を張って自身を持てるような挑戦がしたいです。
ー阪急メンズ東京1階「TAGBOAT ART SHOW」で展示される予定のこちらの作品は、どこの風景を描いていますか?
これは武蔵野園という、永福町にある釣り堀です。
ここで友達がバイトしていて、ちょうど紅葉の季節に遊びに行ったんです。
ー一見すると黄色のイメージが強いですが、目がなじんでくると暗い色も多く使っていますね。
「何が描かれているんだろう?」と思わせるような感じをこの絵でやりたかったんです。
もう「深澤雄太」を知っている方も、知らずに作品を見てくれる方にも、抽象的な表現をどこまで許していただけるかなって、探っているところです。
ー深澤さんとしては、作品を見る人にそれが何かという答え合わせをしてほしいですか?
いえ、全く自由な解釈でいいと思っています。
僕は、コンセプトを聞かれると「ここにある絵が答えです」と思ってしまって、困るタイプなので。
絵の意味合いって、自分の中にはあるんですけど、見る方がどう受け取るかは自由ですし、違っていてもあまり気にしません。
でも、タイトルでは何を描いているか答えを示しています。
ー今までの作品制作と比べて、最も変化していると感じる点は何でしょうか?
今までは、とにかく大きな絵を描こうという気持ちが先行していました。でも、今回はギャラリー空間を意識して、ひとつひとつの絵というミクロの視点から、空間全体というマクロの視点を意識したことが一番大きな変化です。
作品1点1点に焦点を当てると、それぞれが強い絵にはなりますが、今度の個展では全体で全ての作品が1点1点つながっていくような感覚で描いています。それが最も大きい変化ですね。
一度アトリエで完成したものをギャラリーに持っていくことは、ある空間から移動させたまた別の空間でバラバラにして、作品を再構築するということだと思っています。そのため、ギャラリーで作品を組み立てやすいように、ギャラリーという場をイメージとして一回作っておく、というのを意識しました。
進化した深澤を是非見ていただきたいです。
ーアーティストとしてこれからどんなことに挑戦していきたいですか?
大きい空間で、大きい絵が描きたいです。
挑戦というより、着実に、大きい作品を描ける状況を自分で作っていきたいです。今、このアトリエでも十分な広さじゃないと思っています。でも、今の状況に見合った範囲で挑戦して、着実に次のステップに進んでいく準備をしたいと思います。
2022年3月1日(火) ~ 3月21日(月)
営業時間:11:00-20:00
*最終日は17時close、他、館の営業時間に準ずる
入場無料
会場:阪急MEN’S TOKYO タグボート
〒100-8488 東京都千代田区有楽町2-5-1 阪急MEN’S TOKYO 7F
http://tagboat.co.jp/yutafukazawa-stand-up/
深澤雄太 Yuta Fukazawa |
1996 東京都日野市生まれ
2015 東京都片倉高等学校 普通科 造形美術コース 卒業
2019 東京藝術大学 絵画科 油画専攻 卒業
個展
2018 初個展 gallery tagboat「泣いて、静かになる。」
2019 企画個展 gallery MARUHI 「吊るされた肉」
2019 個展gallery tagboat 「nostalgia」
2020 企画個展 gallery MARUHI 「HINO BURNING」
2020 個展gallery tagboat 「Landscape」
2021 個展gallery tagboat 「Stand Up」
受賞歴
2014 立川美術学院 タチビ祭 ギャラリー賞
グループ展
2019 東京藝術大学 東京都美術館 卒業展
2021 阪急メンズ東京「tagboat art show 2021」
2022 阪急メンズ東京「tagboat art show 2022」
2022 ポート竹芝「tagboat art fair 2022」