タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
アーティストになったきっかけ、作品制作方法、作品への想いなど、普段は聞けないようなお話が満載です。
編集=髙橋佳寿美
ーオオタさんは建築学科ご出身ですが、幼少期から建築がお好きだったのですか?
小さい頃から建築が好きで、夢は世界一の建築家になることでした。
青森生まれの秋田育ちで周囲にあまり高い建物はなく、鉄塔や道路工事などの構造的なものをよく見ていたと思います。
ー建築のフィールドを超えて他の世界へ
大学に入ると興味の幅が広がり、建築というフィールドを越えて、日本や世界を良くしたいという思いが強くなっていきました。
大学院では建築を離れて理系版MBAと言われる技術経営学(MOT)を専攻し、
大学院修了後は、社会に大きなインパクトを与えられると考え外資系証券会社に就職しました。
ー就職された後にどんな経緯で作品を作り始めたのですか?
就職後、ストラクチャードファイナンス(証券化)業務に従事していました。
世界中からものすごく頭のいい人たちが集い、創造力を駆使して生み出すその仕組みに、
創造性や機能美を感じとても魅力を感じていました。
しかしながら、この仕組みは2008年のリーマンショックのきっかけにもなり、当時は部署がなくなったり大変な時期を過ごしました。
その時、改めて今までの自分を振り返った時に、やはり自分はもの作りが好きだと気づき、作品を作るようになりました。
ー作品制作が本格化したきっかけはなんですか?
細々と作った作品をインターネットにアップしていたところ、
エージェントを通じて、上海のホテルW Shanghai – the Bundに購入されました。
それをきっかけに、「自分はもっといけるんじゃないか」と思い、一念発起して、
2018年にIndependent Tokyo(タグボートが主催するアートコンペ)に出展しました。
そこで徳光さん(弊社社長)に声を掛けられたのが活動を本格化したきっかけです。
ー作品制作には3Dプリンターを活用されていらっしゃるのですね
理系ということもあり先端技術が好きで、3Dプリンターは10年程前から使っています。
昔はアルミパイプ、ステンレスパイプを接合して作品を作っていましたが、
今は作りたいものが3Dプリンターでないと作れないことが多いです。
CG上で形を作り、設計し、それを形にしていくという工程も建築的で、
プロジェクトマネジメントの要素もあり、自分に合っている手法だと思います。
ーどういう風に作品のアイディアを形にされているのですか?
まずはコンセプトや表現したい事、自然現象とか社会とか人の心とかがあります。
日々、日常生活や旅を通じて表現したい事を思いついたら、まずは言葉にします。
その後、スケッチしてイメージを膨らました後、3DCGで作りこみます。
1つの作品を作るときは、3DCG上で何十個も試作しています。コンセプトを上手く表せているか、美しいか、
構造的に成立するか試行錯誤を重ねます。それでも3Dプリントしてみると現実では失敗だったりします。
ー作品にはCUBEが多用されていますが、その意図とは?
CUBEは構造的に美しいと感じます。また、物事の最小単位として表現しています。
とはいえ、CUBEを使う一番の理由としては「物心ついた頃から好きだった」というものかもしれません。
プラモデルを作っていても、残ったパーツの枠を使ってCUBEを使ったりしていました。
ーオオタさんの作品は美学だけでなく哲学や幾何学も内包しているのですね
哲学と数学(幾何学)はとても密接な学問だと思います。
歴史的に見ても、ピタゴラスやアリストテレスといった多くの哲学者兼数学者がそれぞれの学問を横断的に発展させてきています。
哲学の中でも形而上学、存在論といった分野に興味がありますが、
存在論的命題「我思う、ゆえにわれあり」を示したルネ・デカルトは、解析幾何学の父とも呼ばれています。
幾何学的・構造的なアートを通じて、視覚的・感覚的に人の認識に影響を与えられる作品を作っていきたいと考えています。
ーオオタさんの作品には流用できないデザイン性があって「見た目のインパクトやカッコよさの重要性」を感じますが、
そういうものにこだわりはありますか?
やっぱりかっこいいものをつくりたいです。
しかしながら、単にかっこいいだけではアートとしては弱いのではないかと思います。
メッセージや新たな気づきといったコンセプチュアルなものを折り込みたいです。
例えば、CUBEそのものを置いただけで幾何学的にかっこいいけど、それだけでは私のアートとは言えないかなと思います。
ー作品スタイルを確立されるうえで、建築からの影響はありますか?
よくある質問で、影響を受けたアーティストは誰かと聞かれることがあります。
建築家・デザイナー・ 思想家・哲学者であるバックミンスター・フラーに影響を受けています。
フラーレンや宇宙船地球号などで有名ですが、
構造的・合理的な形態や持続可能性といったコンセプトは、考える起点になっていると思います。
建築からの影響としては、3DCGや構造・材料といった知識・技術を得たということもありますが、
構造的に正直で美しい形を作ることが自分の軸になっていることが大きいのではないかと思います。
ー「構造的に正直」とはどういうことでしょうか?
バックミンスター・フラーによる「テンセグリティ(tensegrity)」という構造があります。
圧縮力と張力がつり合い金属の棒が浮いているような構造で、初めて見た時に驚きと感動を覚えました。
東京では住友不動産虎ノ門タワー(旧JTビル)のエントランスにあります。
見た目通りに力がかかるべきところに力がかかっているのが「正直な構造」だと思いますが、
テンセグリティは正直な構造でありながら宙に浮いている驚きがある。
自分の作品も、幾何学的な立体として正直な構造でありながら、
驚きや気づきがある作品にしたいと思っています。
ータグボートに所属される前と後でどんな変化がありましたか?
それまでは横の繋がりがゼロでしたが、タグボートの展示やイベントを通して
アーティス同士の繋がりができ、情報交換や孤独じゃないという安心感が得られています。
また、初対面の人にタグボートで見たと言われることもよくあります。
ーこれから具体的に作ってみたい作品はありますか?
巨大な作品や色々な素材の作品を作りたいと思います。
ーアーティストとして、これからどんな風に活動されていきたいですか?
アートは一見派手な世界に見えていても、実際はそのようなことはなくて、自分の仕事を着実にすることが大切だと思っています。
また、作品のアイディアが浮かぶたびにネタ帳に書いているのですが、
作っても作ってもアイディアが溜まっていく一方なので、もっともっと作っていきたいです。