2020年9月11日より開催の「TAGBOAT×百段階段」展の会場となるのは、昭和10年の面影を残すホテル雅叙園東京の木造建築「百段階段」です。99段の階段廊下で結ばれた7つの部屋はそれぞれ趣向が異なり、各部屋の天井や欄間には、当時屈指の画家や大工によって創り上げた美の世界が広がっています。
四季草花絵、瑞雲に煙る松原の風景に囲まれた部屋「草丘の間」に展示された天井に届きそうなほど大きな抽象画は、タグボート作家・ホリグチシンゴの作品です。今回は本展における作品制作について、作家ご本人にお話を伺いました。
百段階段「草丘の間」展示風景
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作品はどのような手法で制作しましたか?
今回展示している作品のシリーズは、キャンバスに接着剤を塗っておき、日本画で使用される岩絵の具という色のついた砂のような粉を篩(ふるい)でふりかけて定着させるという手法で制作しています。
普通の絵の具は接着剤と色のついた粉が予め混ざった状態になっています。(普通に絵の具屋さんに売っているチューブ入りの絵の具がそれです)その絵の具の成り立ちを一度解体し、接着剤と色をバラバラにして画面に乗せていくことで、より複雑で誰もまだ描いたことがないような作品を作り出せるのではないかと、そういう思いから取り組み始めました。
「ピンクモーメント」¥880,000-
接着剤と色をバラバラにするという手法は、どのように思いつきましたか?
手法のアイディア自体は3,4年前からありましたが、それまで制作していた作品とはマッチしないと思った為、本格的には取り組んでいませんでした。ただ、今年の三月頃から社会の状況の大きな変化や、それと同時に起きた私個人のプライベートな状況の変化もあって、何か今までと全然違う表現をしてみたいという気持ちが大きくなっていき、自然にこのシリーズに着手していきました。1年前はここまで、がっつり抽象画を描いているなんて全く想像していなかったと思います。
作品で使う色はどのように選びましたか?
作品毎に、何か特定のイメージをもってそれを表現する為に色を使っているわけではありません。普段から描いているドローイングから自分にとって何か作品になりそうだという色の組み合わせを発見し、それを大きな画面に増幅させるつもりで制作しています。色が作り出すイマジネーションというのは言葉で規定できる範疇を遥かに超えた場所にあると思うので、作品を作る前に色について計画をすることはあってもコントロールしようとは考えません。
「ダンサー」¥133,800-
接着剤はどのようなものを使っていますか?
接着剤は水性アルキド樹脂を使っています。薄めて使用しても粒子の大きな岩絵の具をしっかり定着させるだけの接着力があり、接着剤が完全に乾いてからも柔軟性が残ります。
岩絵の具はどのようなものを使っていますか?
岩絵の具については、日本画に使われている粒子の大きなものを使っています。
岩絵の具を使うと、色の粒子を砂のような粒の荒いものにすることによって、この手法のユニークさが強調されます。西洋画に使用されるピグメント(チューブ入りの絵の具で接着剤と混ぜられているものです)は、粒子が細かすぎて篩から上手く落ちくれないのと、落ちても接着剤から浮いてしまい上手く定着しないため使用していません。
今回の作品について、制作の流れを教えてください。
①キャンバスに接着剤を塗る
②上から岩絵の具(日本画で使用される粒子の荒い色のついた粉)をふりかける
③上から紙を重ねてローラーで絵の具を押し付けしっかり定着させる。(上に絵の具が乗らなかった接着剤はこの時点で紙が吸収してくれるので画面には残りません)
トライアンドエラーを繰り返した結果こうなりました。これからより改善するかもしれません。
制作にかかる時間はどのくらいですか?
今回展示しているS150号でも実際描いている時間は30分ぐらいです。
接着剤をキャンバスに塗った時点からリミットは接着剤が乾くまでになります。なのでどれだけ大きな絵でも時間をかけることは物理的に不可能なのです。
作品の完成はどのように見極めますか?
実際のところ、制作している作品は半分くらいが没になっていて、作品として世に出ることはありません。自分の作ったものが自分にとって自分の作品になる条件というのは、一番言葉にするのが難しい部分で、私自身が最も興味あることでもあります。
ただこの間、自分にとって比較的出来が良いなと感じた作品を壁にならべて感じたのは、自分にとって”作品になっている”と感じたものは全て画面から”眩しさ”を感じたということです。木漏れ日を下から見上げている時に感じるような淡い光を、キャンバスの余白から感じたのです。もちろん、キャンバスそのものが液晶のように光を放つということはありませんが、少なくとも視覚的にそれが光を放っているように錯覚した、そしてそれが自分の作品にとって必要な要素のようだと思った事は今後の大きなヒントになるように思います。
最後に、今回の展示はどこに注目して観てもらいたいですか?
試行錯誤しながら実験を繰り返している今の制作の手法でS150号の作品を作るというのは、一つの大きなチャレンジでした。しかし雅叙園という非常に強い空間に対して、自分の表現として違和感を立ち上げるためには必要な大きさだと思います。
歴史ある複雑なレイヤーの重なった目黒雅叙園の空間の中で、自分の作品がどのように物体として存在し、そこへ干渉していけるかということは来てくれた方に見てもらえればと思います。
百段階段 展示風景
展覧会名: | 「TAGBOAT×百段階段」展 ~文化財と出会う現代アート~ |
開催期間: | 2020年9月11日(金)~10月11日(日) |
開催時間: | 日~木曜日・祝日 10:00~17:00 金・土・祝前日 10:00~20:00 ※入場は閉館の30分前まで |
入場料: | 当日¥1,600/前売¥1,500 ※9月10日まで公式オンラインチケットにて販売 学生¥500 ※要学生証呈示、未就学児無料 |
会場: | ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」 |
主催: | 株式会社タグボート・ホテル雅叙園東京 |
販売窓口: | ホテル雅叙園東京(当日のみ)、公式オンラインチケット |