2020年9月11日より開催の「TAGBOAT×百段階段」展の会場となるのは、昭和10年の面影を残すホテル雅叙園東京の木造建築「百段階段」です。99段の階段廊下で結ばれた7つの部屋はそれぞれ趣向が異なり、各部屋の天井や欄間には、当時屈指の画家や大工によって創り上げた美の世界が広がっています。
黒漆の螺鈿細工が重厚な部屋「十畝の間」の床の間で目を惹くのは、タグボート作家・西島雄志による鹿の立体作品です。今回は本展における作品制作について、作家ご本人にお話を伺いました。
百段階段「十畝の間」展示風景
西島雄志Yuji Nishijima作品ページはこちら |
- Concept
「存在」ということを意識したときに、物質そのものよりもその周辺に感じる「気配」のほうがリアルに感じる。その「気配」を彫刻として表現するとき、どこまで形にするのか、どこまで形をなくすのか、そのせめぎ合いの中で形も意識も揺れ動く。そしてその過程を経て確実にカタチを存在させていく。空間の中で断片が浮遊し、光を得て浮き上がるカタチは、正に「気配」として「存在」し始める。
銅線で制作を始めたきっかけは何ですか?
銅線を巻き始めたのは13年前です。制作時間が思うように取れなかったときに、日常そのものを制作にしようと考え、銅線を持ち歩き電車内や公園、自宅のリビングなどでも巻きはじめました。自分の時間を集積していくような、あるいは巻き取っていくような行為です。その集めた時間を素材として繋げていくことでカタチにしていきます。
出展作品のモチーフに鹿を選んだ理由は何ですか?
ずっと人の「存在」について彫刻を通して考えてきました。人のカタチを作り続けてきましたが、人と関わりの深い動物についてもここ数年制作しています。日本では鹿は神の使いとして古くから扱われている動物なので、神秘的な「存在感」「気配」を表現しています。
作品に使っている材料について教えてください。
銅線とテグスを使っています。
銅線を使う理由は、持ち歩いて制作すること、適度な柔らかさがありカタチを作りやすいこと、また銅の風合いが好きだからです。経年で変化していく銅の表情は時間を感じさせます。
制作はどのように進めますか?
まず日常の中で銅線を巻いたパーツをひたすら作ります。ラジオペンチを使って両端からクルクル巻いてパーツを作り、ある程度溜まってきたら作りたいカタチに合わせてロウ付けというガス溶接のような技法で繋いでいきます。あとは現場で吊るしながらカタチを決めていきます。
「TAGBOAT×百段階段展」展示風景
制作にはどれくらいの時間がかかりますか?
この質問は難しいです。銅線を巻くところからだとかなりです。一つのパーツを作るのに大体1分弱です。以前作ったゾウの作品でザックリですが6000個くらいパーツを使用しています。
さらに繋ぐ作業とカタチにする作業、吊るす作業がそれぞれあります。
作品の完成はどのように見極めますか?
ギリギリカタチが存在するところで完成させます。出来るだけカタチをそぎ落とします。
制作しているとき、頭には何が浮かんでいますか?
私にとって制作は考える時間です。手を動かすことで日常の様々なこと、人間の存在についてや地球のこと、宇宙のことまで考えます。
「TAGBOAT×百段階段展」展示風景
好きな制作工程は何ですか?
銅線を巻く作業や繋げる作業は地道で単純作業の繰り返しですが、そのことを通して考える時間は貴重です。また、人や動物などのカタチを与える時のシビアなやりとりも全身全霊を使うので楽しいです。空間そのものを感じとる時間も大切にしています。
作品制作において重要なことは何ですか?
単純作業の中で考えたことや気づいたことを、カタチを与える段階で命を吹き込むような瞬間がとても大事なので、やはり選んだカタチにはかなりこだわりがあります。コンセプトも大事ですが、自分の感覚から生まれるカタチは全てを表すのでそこは重要です。
最後に、今回の展示はどこに注目して観てもらいたいですか?
心を落ち着けてゆっくり静かに「存在」「気配」を感じ取るように見ていただきたいです。遠目の印象と近めの印象で感じ取れることが違うと思いますので、そこも味わっていただきたいです。
「存在の力」西島雄志, Copper wire, 150x200x100cm, ¥770,000-
展覧会名: | 「TAGBOAT×百段階段」展 ~文化財と出会う現代アート~ |
開催期間: | 2020年9月11日(金)~10月11日(日) |
開催時間: | 日~木曜日・祝日 10:00~17:00 金・土・祝前日 10:00~20:00 ※入場は閉館の30分前まで |
入場料: | 当日¥1,600/前売¥1,500 ※9月10日まで公式オンラインチケットにて販売 学生¥500 ※要学生証呈示、未就学児無料 |
会場: | ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」 |
主催: | 株式会社タグボート・ホテル雅叙園東京 |
販売窓口: | ホテル雅叙園東京(当日のみ)、公式オンラインチケット |