アート作品の購入にはいろいろなエピソードが詰まっています。お気に入りの作家との出会いや、作品を購入するきっかけとなった出来事、また作品が届いてからの想いなど。今回は写真家・荒木経惟の作品をご購入されたFJさまのエピソードをご紹介します。
FJ 48歳・男性・福岡県在住 |
2006年10月のTAGBOATのメールマガジンで紹介されていたタカ・イシイギャラリーの記事を見て、荒木経惟の「冬春」の写真に目が釘付けになった。凛として決して媚びていないモデルの表情とたたずまい、中心を少し外した構図、何もかもが完璧に思えた。
アラーキーのヌード写真といえば、計算を全く感じさせない生々しさが特徴と感じていたが、この「冬春」はそういう自分の印象をかなり裏切るところがあった。
まずモデルが誰なのかTAGBOATに問い合わせたところわからないとのことで少し残念であったが(問い合わせ自体には、非常に丁寧に答えていただけた)、そんなことはこの際どうでも良くなった。また現物を見たいとのお願い(こちらはタカ・イシイギャラリーに問い合わせた)も快諾いただけたので見に行ったが、モノクロ写真(購入を考えて手元で見たのは初めてであった)の、モノとしての重厚な質感にも魅せられ、その場で購入を決意した。
当時は何点か美術品と名のついたものを購入した経験があったが(初めて購入したのは、やはり荒木の「花曲」のシリーズであった)、そのどれよりも高額なものであった。当時買ったことのある、あらゆる形のあるものの中でも、中古の車の次に高額な買い物であったと記憶している。今から思えば相当思い切った買い物をしたものだと思うし、それだけの魅力があったということだろう。
面白かったエピソードといえば、同僚数人を自宅に招いた時にたまたま「冬春」を飾っていて、「元カノですか?」と言われたことであった(元カノのヌード写真を飾るなんてどういう趣味なんだ、、、)。別の美術品も飾っていたが、同僚の食いつきはやはり「冬春」がダントツであった(単にヌード写真だったからかもしれないのだが)。
現在は単身赴任をしており、「冬春」や他の美術品も手元にあるのだが、仕事の忙しさや、住む期間が限られた勤め先の宿舎に住んでいることから、気合を入れて美術品を飾るということを全くしていない。そのようなもったいないことをしていることを思い出したのも、このエピソードを書くという機会があったからであり、せっかくそのような思いとともに手に入れた「冬春」、あるいは他の美術品ももっと大切にしてやらなければと思っている次第である。
タグボート スタッフ |
この度は購入エピソードをご寄稿いただきありがとうございます。
2006年のご購入ということで、当時タグボートはまだ創業2年目、写真家・荒木経惟さんのような著名なアーティストのセカンダリー作品を主に扱っていた頃です。
お送りいただいた《冬春》の作品画像を拝見したとき、映し出された力強いまなざしの女性に私自身も目を奪われました。そして、ご購入を決意するまでの気持ちの高鳴りが、浮かび上がるように伝わってきました。
今回をきっかけに、タグボートでのご購入時の出来事や、美術品への大切な想いを思い出していただけたこと、大変嬉しく思います。ぜひ、また《冬春》や他の作品を飾って美術を楽しんでいただけましたら幸いです。