制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの橋本仁さんにお話を伺いました。
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今回制作工程をご紹介いただく作品は何ですか?
Memory Codeシリーズです。
私は「存在と記憶・時間と蓄積」をテーマに、鉄や木や色鉛筆その他画材を駆使し、時間と行為を蓄積させた作品を制作しています。それは、変化の速度が著しい現在において変わらぬ、万物における「辿られうるもの」としての本質を提示することこそ現在に生きる人間としての使命であると考えるからです。
今回は木を使った作品の制作過程をご紹介します。
最近の主な素材は木材と絵の具などです。学生の時はずっと鉄を扱い、大きいものでは高さ5m重さ1tの作品を制作したりしてきましたが、徐々に鉄の持つ力強さや迫力よりも、もっとひっそりとしたフラジャイルな強さを模索するようになりました。現在は石や土に興味があり、どのように作品に取り入れられるのか試行錯誤を重ねているところです。
道具については、主に平面作品で使う絵筆の他に木彫時にリューターを使います。大きな作業の時には卓上丸鋸やボール盤を使います。
作業における楽しさは火とハンマーで取り組む鍛造に勝るものはありません。身体性を超えた“まるで地球と対話するような”素材だからこそ鉄は触っていておもしろいのですが、いつしか製鋼という不自然な行いに疑問を感じ始めました。ただ、鉄と対峙することで養った感覚が今の作品制作の上で大いに役立っていると思います。
それでは作品の制作工程をご説明します。
作品制作は自宅で行っています。庭に張ったテントでは木のカッティングやペインティングを行い、室内のアトリエでは木彫など繊細な作業を行っています。
今回ご紹介させていただく作品では、まず最初に作品の下地となる木製パネルを制作します。
材料の切り出しをする様子です。
カットした材料を圧着しパネルを作ります。
パネルが出来上がりました。
隙間をパテ埋めします。1日置いて十分に乾燥したらサンドペーパーで整えます。
次に木彫部分の材料を切り出します。
カットした材料にボール盤でガイドとなる穴を開けます。
木粉が飛ぶので、防塵マスクは欠かせません。
次にリューターを使いガイド穴を拡張していきます。リューターは荒削りと仕上げ用で2種類使用しています。
リューター作業中の様子です。
次に木彫を貼るアクリル板をカットします。
アクリル板にはアクリル板カッターというものがあります。
カットしたアクリル板に木彫を接着していきます。
一度張ったら剥がせないので、集中して作業します。
今回はパネルを金色に塗装しました。金色は常に極楽浄土、つまり「彼岸」を託した色です。
いよいよ色をのせていきます。失敗は許されない一発仕事。センスが問われます。
「現在」の流動性と現象性が感じられるような色味を狙いました。
木彫を接着したアクリル板を上に乗せます。アクリル絵の具の乾燥が接着剤がわりにもなります。
木彫部分を透かせて「現在」の流動性と現象性を透かし見る作品が完成しました。
写真では限界がありますが、実物はもう少しクリアかつ綺麗に見えます。
サイドから見ると、アクリル板越しに時を止められた「瞬間」の縁(よすが)が質感として表われています。
この世の一切の苦しみから解放される西方極楽浄土に憧れながら、生きざるをえない現実。流動性と現象性が加速度的に増した「現在」に生きる我々は、自らが掌握できないスピードに翻弄されています。そして、スピードについていけない者たちの心は蝕まれその病巣は着実に社会の中で広がっていくことでしょう。
「現在」というレイヤーから「流動性と現象性としての現在」、そしてその遥か彼方にあるはずの西方極楽浄土を透かし見ることで、大きな宇宙に包括された点としての個に目を向け、複雑に織りなす関係性の中に在るシンプルな本質を意識するような作品を制作しました。「見ず知らずから成る我々」という意識の復活を信じて。
今後はどのような制作・活動に取り組んでいきたいですか?
欧米の真似事ではなく日本独自のアートマーケットの形成に寄与するような作家になりたいです。そのためには独自の価値観や美意識を追求し続けなくてはなりません。
外国人が想像する従来の伝統的な日本のイメージを払拭するような、新しい世代による「日本の現在」を模索していく必要があると常々思っています。ただ、一部の人の生活を除きほぼ日常から消え去ったものである伝統文化に触れた時、私たちはそこに「我々の文化」というものを感じるというのもまた事実です。実生活からは程遠いはずなのに感じてしまうある種の「懐かしさ」のようなもの。そうした「共感」を呼び覚ますような作品を生み出したいです。
そのためには、欧米一辺倒ではなく、東アジアとの友好をアーティストが主体的に作り上げていく事が必要であると感じています。ARTは社会機能の一部です。アーティストにはアーティストの政治社会における役割があるはずです。いつまでもロンダリングの中抜きみたいなことで喜んでいる存在で終わらず、「人間の人間による人間のための世界構築」にも積極的に疑義を呈していけるようなアーティストを目指しています。
まさに彫刻家ハンス・アルプの言葉 “我々はより善き人間粒ではなかったか”を体現するような存在でありたい、そして今後もART作品を通じた「同士」として、皆様とより善き未来へ向けて歩んで参りたいと思います。
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