タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
アーティストになったきっかけ、作品制作方法、作品への想いなど、普段は聞けないようなお話が満載です。
毎週更新していきます。ぜひご覧ください!
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小さいころから絵を描くこと・ものづくりが好きでしたか?
むしろ幼少期のほうが今よりも自分で手を動かして絵を描いたり、工作することが好きでした。
母が抽象画を描いていた影響で、いつも身近に画材と「描く」という行為がありました。
また日曜の朝は日曜美術館を観て、美術館にも定期的に行くような家庭だったのでその環境に随分と影響されたように思います。
不器用ですが小中高と一貫して「図工」「美術」が一番好きな科目でした。
「SIGNS FOR [ ]」シリーズ
美術の道に進むことになったきっかけは?
「これ!」というきっかけは特にありません。
当初は憧れはあるものの、美術の道に自分が進みたいという気持ちは特にありませんでした。
しかし元々、作品について考えることや美術全般が好きだったので大学は文学部美学芸術学科に入学しました。
(美学芸術学科は主に美術史や芸術学を学び、既存作品の分析や研究をする学科です。)
卒業後は他の文系の学科と同じように新卒で一般職につく人が多いのですが、
会社勤めが性格的に無理であろうという理由で、私は大学三年生の頃から短期の専門学校に入学し商業フォトグラファーを目指しました。
そこで初めて本格的に写真を始めるのですが、写真を撮ることによって自分が作品を発表する側…言うなれば鑑賞者ではなく、美術のプレーヤーになれることに気づいたことから作品制作に取り組むようになり今に至ります。
「はじまりの終わりは、おわりの始まり。」シリーズ
初めて作品を発表したのはいつ、どんなときですか?
専門学校に在学中、当時の先生に勧められ写真の展示型コンペ「御苗場」で組写真を発表したのが最初です。
その時は受賞には至らなかったものの、沢山の審査員の方々から暖かい評価を頂戴し、審査員賞の候補にノミネートしていただきました。
初めての発表の機会で予期せずご好評いただき、その後の作家活動を後押ししてもらえた思い出深いコンペです。
2013年の展示風景
制作する日はどのようなスケジュールで進めていますか?
日によって全く違うスケジュールで動いています。
物理的に手を動かし制作したり撮影する時間よりも、リサーチや構想、撮った写真の選別、ステートメントの執筆、
「そもそもこの作品はどういうことなのか?」「これらのイメージに対して自分はどう思っているのか?」
ということなどに向き合い考える時間の方が長いような気がします。
作品の制作手順や方法などを教えてください。
根幹となるテーマ性と写真を使用しているという部分は一貫しているのですが、シリーズによって作風が変わるため、その都度制作の手順と方法は違います。
例えば2012年に発表した「はじまりの終わりは、おわりの始まり。」という一連のシリーズは、
撮りためたスナップの中から直感的に選んだ二枚を組み合わせるコラージュを行いました。
「はじまりの終わりは、おわりの始まり。」シリーズ
さらにその次のシリーズ「発光幻肢」では、路上などで撮りためたスナップの他にも、セットアップで撮影した写真を組み込んでいます。
セットアップで撮る際は、煙を焚く装置を探す…などといったことも制作手順の中に入っていました。
またこの時期から「写真」だけで作品群を完結させず、立体物や展示空間に流す音も含めたインスタレーション形式で発表するようになりました。
自宅では刷れない大型のプリントはラボに外注しているので、発注する前の打ち合わせも大事な制作手順の一部です。
「発光幻肢」シリーズ
また最新作「SIGNS FOR [ ]」は撮影の段階で初めて明確なルールを定めて作ったものになります。
今までも作品ごとに自分ルールのようなものはあったのですが、非常に感覚的なことだったので、飽くまでも自分にしか分からないぼんやりとしたものでした。
下記の内容が最新作の「縛り」です。
①デジタル上で合成や消去などの加工をしない。(明るさなどの若干の補正はあり。)
②雲を写さない。
③「広告募集」という文字があったら撮影しない。
④看板部分以外の建物に書いてある文字も極力写さない。
⑤看板の背景が青空になるシチュエーションでしか撮らない。
⑥わざわざ看板を探しに行くためだけに家を出ない。
初めて制作手順に明確なルールを設けることによって発表まで随分時間がかかってしまいましたが、
作品に強度を持たせやすく、もしかしたらこの方法が今の自分に向いているのかもしれないと思っています。
さらに今作では写真をアクリルに出力後、ネオン工房で職人さんに一点一点、特注でネオンを付けてもらっています。
写真にネオンのような異素材を組み合わせる方法も、今までやったことがなかった手法なので新しいチャレンジでした。
「SIGNS FOR [ ]」シリーズ
現在、力を入れて取り組んでいること
今年はソニーイメージングギャラリー銀座と阪急メンズ館tagboat galleryで個展を開催する予定なので※、その準備に力を入れています。
またそこに展示することを目指し、以前から国内でも実現させたかった大型の作品制作に取り組んでいます。
※ソニーイメージングギャラリー銀座での個展は現在延期中
将来の夢、みんなに言いたいこと
「将来の夢」という大きなものではないのですが、長く緩やかな目標にしていることは、やはり自分自身で納得できるような作品を制作し続けることです。
私にとって作品を世の中に出すという行為は、一番誠実な他者と自己との関わり方だと捉えています。
その為には自分なりに考え続けること、少しずつでもいいので形にしていくこと、作品を「問」でありながら同時に「解」にもなるよう磨いていくことを大事にしたいです。
昨年度はUNKNOWN ASIA 2018でグランプリを獲得した副賞で海外、主にアジア圏で作品を発表させていただく機会が何度かあったのですが、
とても刺激的で良い経験になったので、諸々落ち着いたらまた海外での展開も考えています。
また今は主に写真を軸にした作品制作をしていますが、今後は写真以外の表現方法も柔軟に取り入れていきたいです。
物事に何かとはっきり白黒がつきやすい昨今ですが、相反すると思われている両極の事象がひとつのものの中に同時に成立しているということを実感するために、
引き続き丁寧に作品と自分に向き合っていきたい所存です。
深圳での展示
バンコクでの展示
●インタビュームービー
京都府出身、大阪市在住。同志社大学文学部美学芸術学科卒業。
商業フォトグラファーとして広告や雑誌などで撮影する傍、2011年頃から自身のライフワークとして作品制作を開始。
主に「存在する/存在していない」などの両極端と捉えられている事象の間に横たわる広大なグレーゾーンに触れることをステートメントの中心に据え、コンセプチュアルな作品を展開する。
また近年は写真表現だけに留まらず立体作品、コラージュ、ドローイング、インスタレーションなども手がけており、 展示型コンペ「UNKNOWN ASIA 2018」にてグランプリを受賞した際には写真にネオンライトを組み合わせ、実際に青い光が点灯する作品を発表した。