制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの足立篤史さんにお話を伺いました。
足立 篤史Atsushi Adachi |
今回ご紹介いただける作品は何ですか?
標本シリーズの戦車バージョン『T series』です。
標本作品 No.T1
なぜ戦車をモチーフに選んだんですか?
標本シリーズはその名の通り「昆虫のように標本として保管する」をテーマにしています。
これまでの作品では蛾のような飛行機を主にモチーフに制作していましたが、今回の作品は「カブトムシ、クワガタ」のような重厚な甲殻類の昆虫から「戦車」の標本というインスピレーションを受けています。
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
表面に刻まれている文字です。戦車自体の形にも意味はありますが、その小さな存在に刻まれている「歴史」に注視して欲しいです。
材料はどのようなものを使用していますか?
モチーフが存在した時代の素材(新聞、雑誌、他)を主に使用しています。
今回の場合は、普通の新聞だと文字が大きすぎるので、昭和18年に刊行された新聞の縮刷版(一回り小さく印刷された記録用新)を主に使用しています。
今回の作品に使用した素材
その時代の素材にこだわる理由はなんですか?
当初は新聞、雑誌などの「記事の内容」に重点を置いていましたが、コピー紙の質の悪さ、コンセプトの割に「コピー」というものの説得力のなさを痛烈に感じました。
作品にさらに説得力を持たせるためには、本物、つまり実際に当時発行された新聞や雑誌などを使うしかないと感じ、使用することにしました。
大量の戦時下の新聞
その材料を使う上で困っていることはありますか?
素材の手に入りにくさがあります。
制作で使いたい時代、記事などが見つからない、手に入らないことばかりなので、アイデアが浮かんでも素材がなく作れない事が多いです。
戦中戦後当時の新聞
欲しい時に欲しいものが見つからないため、「これは使う」と感じたり、値段的に安いものはとりあえずでも購入し、ストックしておくため、古新聞や雑誌、他色々なものが作業部屋に溢れかえっています。
素材ストックの一部(この6〜7倍新聞・雑誌・書籍・他があり、多すぎて自分でも全て把握しきれてません。)
今回の作品では、第2次対戦中発行の日本の縮刷版新聞を使用しています。
真珠湾攻撃直後の新聞
道具はどのようなものを使用していますか?
主な道具は以下になります。
・レーザーカッター(FABOOL Laser Mini の1.6W)
・PC (Macで主にIllustratorでデータを作成)
・カッター(刃は黒刃で、普通の角度と90度角度と2種類)
・定規(15cmと30cmの鉄定規)
・彫刻刀(塊になったイラストレーションボードを彫刻する)
・ニッパー(紙の棒のカットからはみ出した紙のカットまで幅広く使用、模型用の高い奴が使いやすい)
・カッターマット(A4サイズなどの小回りのきく小さい方を最近は使用)
・角材(細かいカットや微妙な場所をカットする際に、台座として)
・爪楊枝(細かいところにボンドをつける)
・木工用ボンド(速乾で、しっかり紙に染み込んでくっ付くので多用)
・紙やすり(表面を綺麗にする)
・板やすり(面を綺麗に出す)
・ピンセット(細かい用、大きい用の2種類)
・小分けケース(小さいパーツなどをなくさないように入れておく)
・目玉クリップ(イラストレーションボードを接着する際、しっかり固定できるように挟む)
・シャープペンシル(表面へメモ書きをするために)
・自作治具(色々な種類を自作)
・他、多数
主な道具
使用しているレーザーカッター
制作にとりかかる前に、準備することはありますか?
作業机を綺麗にします(細かいパーツが多く、よく失くすので)
では、制作手順について教えて下さい。
1)本体(車体)の制作をします。
イラストレーションボードをレーザーカッターでザックリとカットし、木工用ボンドで貼り合わせます。
しっかり乾燥しくっ付いたら、形を切り出していきます。
左から順に、ただ貼り付けただけから切り出して形になってきている。
2)表面の大きい面の文字貼りの準備をします。
接着面に合わせてカットデータを作ります。その際、文字を潰さず、かつ文字の中でも映えるように細かいリベットなども加減を調整しつつデータを作ります。
カットデータ画面、線の色が違うのはレーザー圧の違い
それをレーザーカッターでテストカット、微調整をし、最終的に問題なければ本番のカットをします。
テストはコピー用紙か、適当に余った紙で行なっていますが、本番は切り抜く文字、文章などしっかり決め、その部分がその後の詰め作業でもなるべく隠れないように気を使い、カット位置を決めます。
決まったらあとはレーザーカッターが自動的にカットしてくれます。
カットが終わったら切り出した本体に貼り付けます。
一部レーザーで細かいリベットなど刻印しても映えない場所は、レーザーでカットせずその場で合わせてカッターでカットします。
データを作って、実際に合わせてみます。
形決めと表面モールド描写の密度検証で新聞で試しカット
文字をその場に合わせてカット
文字とカット位置の調整
貼り合わせ
3)大きい面のカット、貼り付けが終わったら、次は細かいパーツ作業です。
細かいパーツも、大きい面と同様に、図面をトレースして細部を作ります。
カットのレーザー圧やカット数を調整しつつ、データを綺麗にカット、彫刻ができる設定を確認し、カット作業阻止ます。
細かいパーツのデータ
4)まずは転輪、履帯から組み立てていきます。
上部構造物や突起からやるとすぐ破損してしまうので、足元を先にやり、台に固定してから上部を行います。
繊細で細かいパーツばかりなので、焦らず、慎重に組み立てていきます。
足回りが完了したら、アクリル台にネジで固定します。
ネジ止め用のボルトは事前にイラストレーションボードを貼り合わせる際に中に組み込んでおきます。
カットしたパーツはめちゃくちゃにならないように小皿に分ける
転輪の組み立て
転輪の組み立て完了
履帯も接着
台座のアクリルボックスに固定
5)台に固定したら、上部構造物も組み立てていきます。
指先以下のサイズのパーツをピンセットで丁寧に接着していきます。
大量の切り出したパーツ
パーツの細かさ
組み立て風景
パーツは数ミリ単位
全体的な密度を確認しつつ、ちまちまと接着します。
6)作品全体密度を調整しつつ、終わりを見極めて、完成になります。
その後、作品ケース裏にサインを入れ、WEBやポートフォリオ用に撮影したら、あとは展示するだけです。
完成の見極めは難しい
一つの作品の制作時間はどれくらいですか?
大体2週間くらいです(複数同時進行)
作品を完成と見極めるのはどのような形になったときですか?
「完成」の定義は難しいですが、全体の密度と表面の文字のバランスで決めます。
文字の密度が良ければ、細かいパーツをあえて作っていかない場合もあります。
この制作工程で一番こだわっていることは何ですか?
私の作品の上で際も重要な要素「文字」の見え方、配置になります。
今、作家として心掛けていることはありますか?
作家として、というわけではありませんが、少しでも外出自粛のテンションを上げるために、
「Uボートで敵船に見つからないように海底でじっとしているごっこ(潜水艦乗員ごっこ)」や「宇宙ステーション、またはどこか惑星で孤独に駐留しているごっこ」や「ゾンビパンデミックで唯一生き残った人ごっこ」などを妄想しています。
足立 篤史Atsushi Adachi |