今回ご紹介いただく作品は何ですか?
素材も媒体も様々な作品を発表していますが、今回は彫刻作品をご紹介します。
近年制作しているオリジナルのモチーフである ”PUNKUMA” という「世界を本気で変えようとしている気合いの入ったテディベア」の肖像彫刻です。タイトルは『果報は寝て待て ”Everything comes to those who wait.”』です。
果報は寝て待て ”Everything comes to those who wait.” / PUNKUMA / BLACK
この作品はどこに注目して観てもらいたいですか?
タイの涅槃像のようなポーズは、「無もなく、空もなく、ただそこに在る」という、まさに仏教の言葉から着想を得ています。しかし、いざ目に飛び込んで来るものは何とものんきで間の抜けた寝転んでいるくまのぬいぐるみです。その哲学的、彫刻的な大仰なコンセプトと、実際に見えるギャップを楽しんでもらいたいです。
制作はどのように進めていきますか?
見た目のゆるさとは裏腹に、とても長い工程を経て制作しています。
まず、ぬいぐるみを制作することから始めます。
ボディを粘土で荒付けし、フェイクファーを張り付けて、粘土でジャケットを作り着せます。FPR(繊維強化プラスチック)にするため、素材の収縮を考えて原型は少し大きめに、立体感もやや大袈裟に作っています。完成形をイメージするための彩色も施しています。
原型が完成したらシリコンでかなりアナーキーな感じで型を取ります。
この時点で原型は傷んでしまうので、再び使うことはほぼありません。1つのシリコン型からは5体程度の成型が限界で す。そのシリコン型に樹脂を流し込み、ガラスマットで補強、取り出してパテなどで修正、ヤスリで磨き上げ、彩色、完成です。
シリコンで型を取った後の原型
シリコン型、樹脂のマスクを被せた状態
プラスチックに置き換わりました
ここから修正、彩色です
作品の完成はどのように見極めますか?
360度どこから見ても形体、彩色、<自然光・蛍光灯>どちらでも光が当たった時に破綻がないか、納得出来た時です。
制作工程でこだわっていることはありますか?
「ぬいぐるみ」の彫刻というコンセプトのため、「ぬいぐるみ」を制作することから始めることです。くまのふわふわ感、毛の抽象的な形体を出来る限りそのままプラスチックに置き換えて います。
ぬいぐるみの醍醐味はそのやわらかさを抱きしめたり、一緒におでかけしたり、眠ったり、リアリティをもって「愛でる」ことが出来ることだと思いますが、この作品は固く冷たくそれらはすべて叶わないというところが、翻ってチャームポイントになっています。
制作の中で、好きな工程はありますか?
原型の制作です。愛らしい姿が見えてきたときは胸が踊ります。
また、苦手な工程はありますか?
修正作業です。最終的に選ばれた形を再度作る、完成が大きく変わる120%必要な「作業」ですが、磨きの工程はやってもやってもやっても終わりが見えず、心が折れそうになります。
制作中のインスタレーション
制作中の平面作品がずらり
今、作家として心掛けていることはありま すか?
STAY STRONG, STAY PUNK, STAY STUDIO
毎日変わっていく今日の世界のように、作品を変化させています。 そして、制作の根っことなるコンセプトを掘り下げることで、アートの本質を考えること、アートはしないと考えていること、真逆を行きつ戻りつ、今はしっかり勉強する時だと思っています。
今、作家として何か伝えたいことはありま すか?
歴史的にも大変な出来事が起き、以前に戻ることがなくても、世界中の人々は立ち会って何とかしていく仲間です。
アーティストは、芙蓉(変化しやすい)不朽(永遠に廃れない)のアートに、今日も技術と知識、経験と情熱を作品に注いでいます。たとえ物理的に発表する場所や機会がなくてもです。
「誰もが15分間なら有名になれる」というアンディ・ウォーホルの言葉は、SNSやYouTubeによって既に予言以上になっています。それはとてもフラットで大変エキサイティングです。
もしあなたがSNSを活用されているのなら、アートを検索してアーティストのページを覗いてみてください。あなたの好みの色彩や形、テクスト、同じ世界観を持っているアーティストがいます。
もしあなたが何かを描いたり作ったりしているのなら、アーティストに話しかけてみてください。 きっと良いコミュニケーションが取れます。
もしあなたが退屈しているのなら、アーティストは刺激や活力、「?」を差し出します。初めて 触れる考えに励まされたり、揺れ動かされたりするかもしれません。
塩見 真由Mayu Shiomi |