制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストのLimoさんにお話を伺いました。
Limo |
Limoは、ハリウッド帰りのヘアメイクアーティストであり、元手術室看護師というユニークな経歴を持ちます。鮮やかで透明な樹脂を組み合わせた独自の作品は、不可思議でスタイリッシュであると同時に、生命の持つエネルギーを内包しているかのような躍動感と儚さが入り混じっています。また、デジタルやパフォーマーとの今までにない新しいコラボレーション作品を展開し、活躍の場を国内外に広げています。
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
ワイヤーと樹脂から生み出されるオリジナルのピースをフレームと組み合わた作品『LimoPiece515〜心の細胞〜』ができるまでをお伝えします。
この作品は、顕微鏡から覗いた心の細胞をイメージしています。フレームの中では固定されているピースと流動的なピースが混在しているので、流動的なピースが動くことによって変化する作品です。人の眼は見えるものにとらわれてしまいます。ですが何も存在していないと思い込んでいる透明な背景にこそ、何か大切な現象がうごめいているのではないでしょうか。
「ピースが存在している場所以上に、ピースが存在していない空白の部分に本当の意味があるんではないか?」自分では気づくことのできない深層心理について、この作品が持つ透明感、浮遊感、光があたった時に映る影などを通して感じていただけると、作家冥利につきます。
制作現場はどんな場所ですか?
広めの戸建てを借りて、その2階部分をアトリエとして使っています。まだ娘を育てながらの制作なので、自宅がアトリエになるようにと選びました。10畳以上あるフリーリングなので、広さ、床ともに、理想的な環境です。
アトリエで気に入っている点はありますか?
西向きの2階なので、日当たりが良く、カラッとしていて、とても気持ちがいいです。窓から見えるちょっとした植物が好きです。
反対に困っている点はありますか?
エアコンがないので、夏は暑く、冬は寒い点です。そもそも揮発性溶剤を使っているので、換気しながら作業をする必要があるので、エアコンがあったとしても、窓全開なので意味ないんですがね。
また、ちょこちょこ整理整頓を心がけています。制作に没頭すると、すぐにモノで溢れてしまうので、作業効率が落ちないように気を付けています。
この作品はどのような材料でできていますか?
ワイヤーと合成樹脂です。
透明でキラキラしているところが気に入っていますが、とにかく臭く、防臭マスクなしでは体に有害であるというデメリットもあります。
材料についてこだわっていることはありますか?
強いて言えば、粘度ですかね。すぐに固まって使い物にならなくなるのですが、逆に薄いと膜が貼らないので、粘度のコントロールはこだわらないと、作品が全く作れなくなります。
なかなか根気のいる作業ですが、いつも気をつけている事は、メリハリです。新しい作品が作りたくってワクワクしているキモチが強い時に、制作をするように心がけています。
こねるようにカタチを作っていきます。
②ワイヤーに合成樹脂を浸す。
ワイヤーとワイヤーのスキマに膜が張ります。合成樹脂の粘度が低すぎると膜ができません。逆に粘度が高すぎると合成樹脂の抵抗に負けて、ワイヤーの形が変わってしまいます。あと、ワイヤーのカタチによっても、上手く膜が張らない場合があります。このあたりは今までの経験と勘を頼りに制作しています。
そして、揮発性の溶剤になるので、作業するときには防臭マスクが必須です。
③膜が固定するまで、乾かします。
季節やワイヤーのカタチ、大きさによって時間は違いますが、15分から1時間くらいは待ちます。
④色付け
実は色つけの方法もタイミングもいろいろあります。
LimoPiece515の場合はこのタイミングで色つけをしています。
ピースのそれぞれの場所で色がどんどん混じっていくので、計算外の面白味と楽しさがあります。重力と時間の魅力が詰め込まれる大切な工程なので、楽しくも緊張する瞬間です。
⑤コーティングする。
乾かす→コーティング→乾かす→コーティングの繰り返しです。
ピースによって、コーティングの素材や回数を変えています。
ある程度、乾いてもベトつきは長い間残ります。完全にベタつき感がなくなるのは数ヶ月から1年以上かかります。
こうして、いろいろなピースを作って置いています。
⑥ピースを選んで、組み合わせていく。
⑦アクリル板の上に接着するピースを決めて、接着していく。
変化する事がコンセプトの一つでもあるので、あえて、全てのピースはアクリル版に固定はせずに、自由なピースを残したり、作品によっては、ほとんどのピースを固定しない場合もあります。
⑧数作品が出来上がったら、まとめて撮影をします。
反射の関係で、自分で撮影するのは困難を極めます。
プロに撮影を頼むとこんなに美しい写真になります。
この作品は展示、販売のみでなく、百貨店のディスプレーとコラボレーションしたりもしました。
作品の色はどのように決めていますか?
ヘアメイクの現場では、モデルさんの顔の作りや肌の色、イメージ、照明など、いろいろな要素から、使う色を決めなくてはなりません。なので、アート作品では、できる限り計算的な思考は入れないように、自分の閃きや感覚にフォーカスをおいて、使う色を決めています。
このシリーズは、心の色と形、意識と無意識をコンセプトに、インタビュー結果を元にも作られているので、私以外の他の人が感じている心の色やカタチをキーワードとして意識し、ざっくりした色の方向性を決めたりもしています。
このような作風に行き着いた経緯を教えてください。
もともとはマスクの素材の一つで使っていたこのピース。それ単体にも凄く魅力があると、ずっと感じていました。これで壁掛けのアートを作りたい!さまざまなハードルをクリアーして、1年模索した末、2018年年末にやっとフレーム作品として世に発表できました。
作品をご購入していただいた方より、
『元気がもらえる』
『今までの人生で幸せと感じた瞬間を思い出させてくれる』
『これから向かうべき方向性を導いてくれている感覚』
などなど、メールをもらえることもあり、とてもとても嬉しいです。
これからも、このシリーズを続けていきます。