制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回は、世界9カ国13カ所のアーティスト・イン・レジデンスに参加し世界中を移動しているタグボート取扱い作家・Oumaの制作風景をご紹介します。
普段はどのような作品を制作していますか?
私は、元獣医師という経歴を持っています。
治療の代わりとなるアートの探求からキャリアをスタートさせ、生命とはなにかを突き詰めていくうちに、医療の未来について考えることになりました。2020年現在は「社会治療」をテーマに、「社会に参加する人が自ら社会を癒し、それによって自分も癒される」医療概念について考えています。
2016年には、初めてバルセロナでのアーティスト・イン・レジデンスに参加した際に切り絵を使ったインスタレーション作品を制作しました。
その後も写真をカットするなど、さまざまな切り絵作品を制作しています。
こちらはブラジルで見つけた葉っぱをかたどった作品です。
今回ご紹介いただく作品について教えてください。
生命の最小単位である「細胞」をモチーフに、さまざまな素材や手法で制作していますが、今回は2019年から始めたオノマトペを切り絵で表現する「音と細胞」シリーズについてご紹介します。
使用している道具・材料について教えてください。
道具としてはデザインナイフのほか、通常より鋭角のカッター、それからメス刃をつかっています。メス刃の替刃は韓国のレジデンスに参加した際にたくさん購入しました。
メス刃はカーブを切る時に切りやすいです。
紙は和紙をよく使っていますが、美濃紙、楮紙、典具紙のほか、繊維の多く入ったものや厚手の物など、いろんなものを使っています。小判サイズ(90×60cm)で1枚2500円くらいするものもあります。
日本産の和紙は非常に質がよく、作品が千年もつと聞いたことがありました。同じ植物でも他の地域で育った植物と日本で育った植物では、できあがる和紙が違ったものになるそうです。
ほかに制作の過程で何か考えることはありますか?
他にも韓国紙やブラジルやバルセロナで購入のハンドメイド紙などを使っています。ブラジルの紙には繊維が多く含まれているので、表面のでこぼこした質感もおもしろいですね。
友人が象の糞で手作りの紙をつくっているのですが、作品の見栄えだけでなく、その素材がどこからきているのかという循環も考えながら作品づくりをしています。
モチーフにオノマトペを選んだ理由は何ですか?
文字を使うと文字を読める人と読めない人、その文字が母国語の人とそうでない人の間で、理解度に大きな差がついてしまうと考え、これまでは文字を「使わない」ことを自作のルールとして決めていました。
ですが文字があることで、視線が作品に留まりやすくなり、さらにそれがオノマトペの場合、なんらかの動きを想像させるため、作品という物体に内在される物語を表すのにとても適した表現だと考えるようになりました。
文化の最小単位としての文字が作品に加わることで、鑑賞する人の理解度には差が出ますが、それゆえに理解を補いあうコミュニケーションが生まれやすくなると思っています。
2016年のバルセロナでのアーティスト・イン・レジデンスを皮切りに、世界9カ国13カ所のレジデンスプログラムに参加してきました。アート活動を始めた当初から、アートを通じて世界に貢献したいなと思っていましたが、世界がなんだかよく分かりませんでした。
2020年4月現在、海外への移動がなかなか難しくなってしまいましたが、アートの素晴らしさは他の国の人たちともアートを通じて交流ができることだというのを実感しています。
アートを通じ、社会や医療にもっと関わり、貢献していきたい。
ぜひ、作品を購入して応援していただけるとうれしいです。