制作工程を種明かしする「How to Make」インタビュー。今回はタグボート取扱いアーティストの小木曽ウェイツ恭子さんにお話を伺いました。
小木曽ウェイツ恭子Kyoko Waits Kogiso |
今回ご紹介いただく作品を教えてください。
3枚のシリーズで描いた作品 「a」 のための 「a’」 と 「a’’」の習作です。
習作「a’」
習作「a’’」
完成「a」
このようなプロセスをたどる理由は何ですか?
りんごの彫刻があるとします。芯に肉付けしていって作ったものと、塊から削り出して作ったものとでは、私は削って作ったほうが良いと考えています。なので、制作する時には、ある程度描き込んだものを下地として、いらないものを削っていくようなプロセスを踏むことが多いです。
結果、最初が一番良かったじゃないか、ということもあるが仕方がないと思っています。スキップして楽をしようとすると、大抵泥沼化してもっと回り道になるからです。それでも迷って迷って完成したものの方が大抵良くなります。
人物をモチーフに選んだ理由はどうしてですか?
「人物」が一番難しいので敢えてよくモチーフに選んでいます。難しい課題に取り組むことで、絵画の本質が見えてくる・・・と思い込んで一生懸命描いています。
この人物にモデルはいますか?
4年前の夏に、娘にモデルになってもらいました。当時はおとなしく座っていてくれましたが、今はモデル代を払わされることがあります。
色選びについても考えていることはありますか?
色の選択は無限にあるので、自由に選んで使いこなしたいと思っているのですが、絵と格闘しているうちに大体いつもと同じような色使いに落ち着いてしまうことが、自分の課題の一つだと思っています。
この作品はどのような場所で観てもらいたいですか?
今、想像してみました。静かなギャラリーが良いな、と思いました。
この作品はどのように観てもらいたいですか?
見る目を培った人の心の琴線に触れることができたらといいな、と思っています。
素晴らしい絵画に出会うと、説明を聞いたりしないでも見た瞬間で釘付けにされてしまうことがありますが、そういう絵が描けたら良いなと思っています。
制作現場はどんな場所ですか?
息子の部屋を占領して描いています。なるべく息子のものを汚さないように気を付けています。
その制作現場を選んだ理由はなんですか?
息子には申し訳ないがそこしかなかった、としか言いようがありません。
その制作現場で気に入っている点はありますか?
三方向に窓があるので明るいのと、天井に張りがあるのでハンモックを吊るすことができるところです。
実際にハンモックを吊るしているんですか?
趣味でハンモックの制作と研究を勝手にやっています。このチェアハンモックはフルリクライニングできるように開発してみました。また、部屋が狭いので邪魔にならないよう上部に滑車を付け、使わない時は天井の方に引き上げておけるよう工夫しました。今まで自分流でいくつも作ってきましたが、ハンモックの永遠の課題は、体の各部位におけるロープの「テンション」だと思っています。とか言って、本当は楽なポーズでグーラタするのが好きなだけ、なのですが・・。
その制作現場で困っている点はありますか?
日中、部屋の中が明るくなりすぎて光が乱反射してしまうのと、部屋が狭い点です。
使っている材料はなんですか?
アクリル絵の具です。こだわりのメーカーなどは特にありません。
アクリル絵の具を選んだ理由はありますか?
扱いが簡単だからです。水で溶けるところが好きです。
逆に困っている点はありますか?
部屋が汚れると落としにくい点です。
その材料はこの作品でどのように使っていますか?
下描きから仕上げまで濃度を上げて使っています。色は多めに作り、作った色が余ってももったいないと思わないようにしています。
この作品は、どのような手順で制作しましたか?
スケッチをして、構図を決めてからキャンバスに描きます。
大抵、ある程度描き込んでから単純化していきますが、思うような手順で進行することはほとんどなく、何度も描き直しながらなんとか進んでいく感じです。飽きるまで同じ構図で何枚か描くこともあります。
制作にかかる時間はどれくらいですか?
3枚のシリーズで描きましたが、1枚目に3週間、あとは1〜2日でした。現在取り掛かっている作品はF20号ですが、3ヶ月以上もいじっています。その前のF40号は一週間で仕上がったり、と期間にはムラがあります。
作品を制作しているときに、頭に浮かんでいることはありますか?
覚えていませんが、いつものように次から次へと雑念が浮かんでいるだけだと思います。良い絵にしようという努力はしています。
制作の中で、好きな工程はありますか?
描いている時は、その作品が良い方向へ向かっているのかさっぱり判らないのに、「これではダメだ」ということだけは分かるので、ひたすら描き直し続けます。なんだかんだで、「よし、終わり」という仕上がりが見えてくる瞬間が好きです。
反対に、苦手な作業はありますか?
制作中は9割が自分へのダメだし作業で、特に一からやり直すような作業が何度も続くと心折れそうになります。他人の作品の良し悪しはよく「見える」のに、自分の絵に向き合った途端フィルターがかかったように見えなくなり、正確な判断ができなくなってしまいます。誰かがアドバイスをしてくれるわけでもなく、悶々と孤独で不毛な作業をしていると不安になることもありますが、最後に満足のいく仕上がりになったと思える時は、苦労したことは一気に帳消しになり、絵を描く仕事に感謝の念しか湧きません。
その制作工程でこだわっていることはありますか?
こだわっていることについては、こちらにコンセプトをまとめてあるので、見ていただけると嬉しいです。
今、みんなにおすすめできる家での過ごし方はありますか?
我が家オリジナルの、紙とペンだけでできる「お遊び」を紹介します。
我が家は12歳と15歳の子供がいます。外出自粛要請中は学校もないので、子供達もついダラダラと1日を無為に過ごしてしまいがちですが、1日も「終わりよければすべてよし」だろう、ということで寝る前に一緒に楽しいことをしてから寝るようにしています。
最近は毎晩「お絵かき対決」をしています。
それぞれ「お題」を考えて紙片に書き、たたんで混ぜたら一つずつ選び、それぞれがその「お題」を描きます。例えば「スネ夫のママ」というお題の場合、「スネ夫のママを知っている」ので「絶対描ける」ような気がするのですが、ドラえもんならまだしも、スネ夫のママとなるとなかなか正確に思い出して描けないもので、なんともヘンな絵になってしまいます。毎回見せ合って一番うまく描けた人が勝ちです。
ネタが尽きてくると、新しいルールが勝手に展開していき、例えば、「古代の生き物の名前だけを聞いて、それを想像で描いてみる」とか、「右の人を喜ばせる絵を描く」、とか「何かのキャラと何かを勝手にコラボ」といったお題も面白かったです。「連想シンクロゲーム」は、連想ゲームを途中でストップし、次に連想するモノを口に出して言わずに絵に描き、一斉に見せ合ってシンクロ率を図る(だからなんだ)、というゲームです。
昨日は4コマ漫画の一番上のコマと一番下のコマだけをテキトーに描いて、中ふたコマの空欄を隣の人に描かせる、というのをやって、これも盛り上がりました。
私も毎回本気で臨みますが、子供の観察力と記憶力と発想力に脱帽し、逆に自分が知っているつもりで実は何も見ていないことや、思い込みで勝手に記憶を書き換えていることや、意外と絵がへたくそだ、ということを思い知らされて、毎晩のように軽く衝撃を受けています。小さなお子さんでも大人でも楽しめるのでオススメの家での時間の過ごし方の一つです。
今、作家として何か伝えたいことはありますか?
外出自粛が始まり、はじめは「これは大変なことになったぞ、どうしよう」と不安になったのですが、すぐに「あれ?自分はいつもと同じだった」ということに気がつきました。普段から引きこもり傾向ですので家の中にいるのは得意だったのです。
以前は、「働き方改革の推進」を他人事のように聞いていましたが、今回の件で「働き方改革」が向こうから走ってやってきてしまったように感じています。私も家計を支えるための仕事を持っていますが、今月は収入がなくなってしまいました。慌てて仕事を探す前に、良い機会なので今取り組むべきことは何なのか、今後必要とされる仕事とは何か、などを立ち止まって考えてみようと思いました。
まずは家の中での無駄な出費を抑え、子供には小遣いを与える代わりにメルカリを始めさせて自分で稼いでもらうことにしました。家の中もスッキリするし、想像以上に経済の勉強になっているので良かったと思っています。また、学校が休みになっていることで、学校本来のあり方も問われていくと思います。学習自体はやろうと思えばネットで充分ですし、ネットが普及している以上暗記型の学習などにはあまり意味がないことを子供側も気づいています。今回のコロナの拡大で急速に社会が変わっていくのを、大人しく引きこもりつつ全力で見極めて行きたいと思っています。
今後はどのような活動をしていきますか?
これまでは外側から宇宙人が攻めてくることくらいしか人類が団結する道はないのではないか、などと考えていましたが、今回のコロナの件が内側からの道になるのでは、と思いました。コロナのおかげで、自分さえよければ、自国さえよければ、という考え方も変わっていくでしょうか。変わっていくと良いな、と思います。
現在、タグボートでは毎週アーティストを交えてZOOM飲み会が開催されていて、アーティストを励まそうとしてくださっているのが伝わってきます。100年前のスペイン風邪の時にはありえなかった、例えばこのような現代の恩恵を積極的に活用しつつ、孤独な不安に陥らないよう元気に引きこもるのが良いと感じています。
作家としてもますます制作に励みたいと思います!
小木曽ウェイツ恭子Kyoko Waits Kogiso |