タグボート取り扱いアーティストの皆さんに、インタビューに答えていただきました。
アーティストになったきっかけ、作品制作方法、作品への想いなど、普段は聞けないようなお話が満載です。
毎週更新していきます。ぜひご覧ください!
小さいころから絵を描くのが好きでしたか?
好きだったと思います。ただ、描きたいものは結構限定されていたかなと思います。
景色や静物など何かを見てそのままに描くことにはあまり興味がなく、頭の中に浮かんだイメージを自由に描くとか、人の顔や物を自分流にアレンジして描くことを面白がっていた記憶があります。
美術の道に進むことになったきっかけは?
「絵を描くこと」が「将来やりたいこと」に結びついたのは、大学を卒業してから数年後のことです。
テレビ局などの放送メディアやコンサートに関わる仕事をしたいという夢を持ったのが中学生の頃で、その夢を追いかける中、高校時代に出会った恩師の勧めで武蔵野美術大学短期大学部の空間演出デザイン科に入学しました。夢を叶えるにはベストルートと言える進学先でしたが、結局そのような関連の制作会社には就職出来ずに一般企業でデザイナーアシスタントを勤めた後、暗中模索の日々を送ることになったんです。とにかく当時は動き続けていましたね。イラストレーター志望者が集まるセツモードセミナーに入学して仲間を作りグループ活動をしたり、空間演出担当として音楽イベントに参加したり、デザインフェスタにも定期的に出品するなど、美術やデザイン、音楽に関することに様々な形で参加しながら「自己」と「表現」の関係について考えていました。きっかけとなったのは、ボランティアスタッフとして参加した第一回目の<越後妻有アートトリエンナーレ>でした。公式グッズのプランナー兼デザイナーとしての仕事と、アーティストの制作アシスタントについていたのですが、そこでお会いしたポーランドの画家スタシス・エイドリゲヴィチウスさんの公開制作ワークショップで、初めて現代美術と深く関わりました。その経験が私の中で大きく作用し、その頃から誰に見せるわけでもない、自分だけの絵を描き始めました。現在も描いている「生き物」のような絵の原型が生まれたのもこの頃です。
当時描いていたドローイングの内の一枚
初めて作品を発表したのはいつ、どんなときですか?
2002年に開催した二人展です。独学でひたすら絵を描き続けていましたが、芸術の領域で何かをしていきたいという気持ちが強く芽生えてきたタイミングで、当時よく会っていた写真家の友人と一度作品を人前に出してみたらどうか?という話になり、二人展をすることにしたんです。会期中、絵をとおして見に来てくれた人との間に思考や感情のやり取りが生まれることに感激し、作品を継続的に発表するようになりました。
2002年の二人展で発表したドローイング
それから3年ほど経ち、描きたい!発表したい!という衝動が落ち着いてきた頃、「私はなんでコレを描きたいんだろう」という問いにぶつかり、じゃあ専門的に学び直そうと。で、どうせなら海外に行こうと考えた時、その頃一人旅で訪れて大好きだったイギリスの大学院に留学することを決めました。
イギリス大学院時代に使っていたスタジオ
学内展示のために描き溜めたドローイング
美術学部内ギャラリースペースで行った個展「100=141」の様子
制作する日はどのようなスケジュールで進めていますか?
私の場合、作品によって使用する支持体や画材、アプローチ方法やコンセプトが少なからず変わってくるので、その日の自分のコンディションに合うものから制作をスタートします。作品は常に数枚を同時進行で描きます。気分や集中力の変化に合わせて、習作を描いたり、本を読んだり、SNSへの投稿、メールや事務関係のことをしたり、絵画作品の下地準備をします。
お話ししたとおり、作品によって支持体や画材などが変わるため、手順や手法にも違いが出てきます。特に和紙を使った<In between oneself and others>シリーズはなかなかユニークだと思うのですが、まず、自分にゆかりのある場所や出掛けて行った街に在る建物の壁や道路の凹凸を採取するため、その壁や道路の一部分に和紙を置き黒のオイルパステルでフロッタージュします。一定枚数を集めたら持ち帰り、それらを並べて見ながら直感でいくつか選び取り、欲しい模様の部分を破り取ります。その後、破った紙片それぞれの模様を組み合わせて支持体が完成します。それから部分的に赤い糸で刺繍を施し、最後に絵を描きます。このシリーズは、私と他者、人間と社会との関係を街や場所を通して考えてみたいと思って始めた作品です。東京だけでなく、アメリカや2019年に滞在したイタリアでも模様を採取し制作しています。現在No.27まであり、今後も作り続ける予定です。
イタリア・フィレンツェにあるサンタ・トリニタ橋でフロッタージュ
東京で採取しパリで発表した<In between oneself and others>シリーズの内の二枚
絵画作品に関しては、最初にテーマや表現の方向性を大まかに持ってから、その時に見えたものをまず描いてみることから始めます。描きながら目の前の形と対話し続けると、そのやり取りによって抽象的だったテーマが段々とクリアになってくるので、それが分かり始めたら、完成に向けてひたすら筆を動かす、というのが基本的なプロセスになります。実際には、意識下にあったテーマが見えてくるまで非常に時間がかかったり、完成手前で立ち止まったりと、理想的なスケジュールで進まないことも多々ありますが、その絵が固有の存在感を持ち得るまで諦めずに取り組むことをとても大切にしています。完成予想図を先にスケッチしてから描き始めることも時に試していますが、自分の中でまだ上手くドライブ出来ず、道半ばといった感じです。
2015年開催のドローイングイベントの様子。描き始めからのプロセスが分かる。
現在、力を入れて取り組んでいること
これまでの活動を振り返ると、展覧会毎にいくつか新たな手法に取り組み発表する、という形をとってきたのですが、現在は、あるひとつの手法にフォーカスして、そこにこれまでに生み出した要素を少しずつ統合していくことで、今後さらに発展・追求していけるような強い表現を確立できないか、ということを考え、徐々に実践しています。
将来の夢、みんなに言いたいこと
2018年から日本で新作を発表することが出来ませんでしたが、今年から東京など国内での展示も再開できそうなので、その際にはぜひ会場に足を運んでいただけたら嬉しいです。これからは国内外で継続的に作品を発表していきながら、将来的には、例えば企業との商品企画やキャンペーンでのコラボレーション、ARアプリやサービスへのコンテンツ提供等、チームで何かを作るようなオープンな活動も出来たらいいなと考えています。
2018年上海の個展
2018年北京の個展
2019年パリの二人展
あと、昨年11月にパリの出版社iKi Editionsより、作家キャリア初のアートブック<Emo-jō>が出版されました。初期の代表作である、2008年イギリス大学院時代に制作した極小サイズのドローイング作品で構成された本書は、私が当時用いていた制作プロセスを読者が追体験出来るようにと考えたページ展開と作品セレクションになっています。
タイトルであり本のテーマともなっている<Emo-jō>は、英語の「Emotion」と日本語の「感情」を組み合わせた造語です。その由来は、絵文字(emoji)やEmoticon(emotion icon)という言葉にもなぞらえています。「感情や気持ちを表し伝える」という点で、メッセージのやりとりに頻繁に使われるそれら簡素化されたマークに対し、私の描くカタチが読者にとってどのような存在であろうとしているのかも問いかけています。現在日本での販路を検討中です。どこかで見かけたらぜひお手に取ってご覧ください。
私の内側に生じる強い感情や無数の言葉から成る思いの先に、生まれてくる何か。
話し相手のような、ただそこにいてくれるような、そんな存在。
変わりゆく時代と人の間で、喜び、もがき、哀しみながら、私はこの世界で生きている。
物事を知れば知るほど無力感でいっぱいになる時がある。
一方で、どのような状況の中にあっても絶たれることのない、人が生きることの強さを知り、心の奥が熱くなる。
この矛盾する感覚の摩擦から生まれるエネルギーが、私の絵の源泉。
神奈川県横浜市生まれ 東京都在住
2008年 英国国立ノーザンブリア大学大学院 School of Arts and Social sciences
in Art Practice修士課程を優秀成績にて修了(MA with Distinction)
1998年 武蔵野美術大学短期大学部デザイン科空間演出デザイン専攻を卒業
【Artist website】 maikok.com
個展(選抜)
2018 “相対可愛 -We are all Kawaii-” Space Zero(北京798藝術区・中国)
2018 “可愛哲学 -Kawaii Thinker-” Shun Art Gallery(上海・中国)
2017 “DEAR ART” ギャラリー和田(銀座・東京)
2016 “Living in the City” ROPPONGI HILLS A/D GALLERY(六本木・東京)
2015 “Capture the moment -いまをえがくこと-” MITSUME(清澄白河・東京)
2014 “The works so far…” 町田市庁舎(町田・東京)
2013 “こころライト ー mind / heart : right / light” ギャラリー和田(銀座・東京)
2012 “Drift into Time” 表参道画廊(神宮前・東京)
2011 “Sorrows of Life” ROPPONGI HILLS A/D GALLERY(六本木・東京)
2010 “ID” L MD Gallery(パリ・フランス)
2009 “Vale of Tears” hpgrp GALLERY TOKYO(神宮前・東京)
グループ展(選抜)
2019 “A duo show (仮タイトル)” Pierre-Yves Caër Gallery(パリ・フランス) *12月 開催予定
2019 “Out of line” Shun Art Gallery(上海・中国)
2018 “若葉集 -Young Artists from Japan-” Blue Roof Museum(四川成都・中国)
2017 “ART FAIR TOKYO 2017” <hopin’ 展=”” ポケットの希望=”” pocketful=””> 東京国際フォーラム(有楽町・東京)
2016 “3331 Art Fair 2016 -Various Collectors Prizes-” 3331アーツ千代田(外神田・東京)
2013 “Machida Connection ” 町田市立国際版画美術館(町田・東京)
2012 “FIELD OF NOW 2012” 銀座洋協ホール(銀座・東京)
2011 “VOCA展2011 -新しい平面の作家たち-” 上野の森美術館(上野・東京)
2010 “Salon du dessin contemporain 2010” カルーゼル・デュ・ルーブル(パリ・フランス)
主な出版物:
2014 < Allgemeines Künstlerlexikon (Artists of the World:世界美術家事典) >, BAND 81 Knecht ‒ Kretzner
Ulrike Middendorf 項目執筆 DE GRUYTER (ドイツ)発行
2011 < VOCA展2011 -新しい平面の作家たち- >総合カタログ 「VOCA展」実行委員会・上野の森美術館発行
2011 < NOUVELLE GARDE DE L’ ART CONTEMPORAIN JAPONAIS > Sophie Cavaliero著
LE LEZARD NOIR (フランス)発行
2008 < THE POWER OF JAPANESE CONTEMPORARY ART > 山口裕美 著 株式会社アスキー発行
2007 < WARRIORS OF ART > 山口裕美 著 Kodansha International Ltd. 発行
2004 “ギャラリーレビュー”, 平野千枝子 < 美術手帖 >, vol.56 no.849 美術出版社発行
その他
2018 アーティスト・イン・レジデンス managed by Shun Art Gallery(上海・中国)
2015 ライブパフォーマンスイベント <いまをかなでること> MITSUME(清澄白河・東京)
2015 ライブドローイングイベント 代官山T-SITE Garden Gallery(東京・代官山)
2008 アートプラクティスコース修了制作作品 英国国立ノーザンブリア大学買上げ</hopin’>