2月21日(木)より開催する3人展「Plastics」に出展するフルフォード素馨。「信じられるものはなにか」という問いをもって、関係性や距離感、愛情をテーマに作品を描いています。私たちが日々受け取る情報が無意識のうちに再構築される過程を映し出します。創作のきっかけやプロセスなどをお聞きしました。
フルフォード素馨 Jasmine Fulford
1988年神奈川県逗子生まれ。
武蔵野美術大学油絵学科卒業後、すぐイギリスに渡り、UALセントラルセントマーチンMA Fine Artを修了。
現在は日本を拠点に、主に平面、ときどき立体の制作を行う。
一貫して、「信じられるものは何か」をテーマに考え「フェイクニュース」や「関係性」、「祈り・呪い」をキーワードに、自らのリアリティを追いかける制作を行なっている。
__前回のインタビューでお話しされた「実感」に注目する姿勢は、現在の作品にも続いていますか?新しい視点があれば教えてください。
去年「信じられるものは何か」を、自身の制作における長期テーマとして設定しました。
生きる上での「実感」や「リアリティ」は、私自身の身近な関係性と併せて、私にとって「信じたいこと」として、集約されました。
何の疑いもなく信じられるものは存在しないかもしれないけれど、自らの感じている「実感」と、「自分の存在」を信じなかったら生きていけないのではないか、と仮説しています。
__フルフォードさんにとって、最近の「愛情」や「関係性」はどのように変化してきましたか?その変化は作品にどのように現れていますか?
私にとって関係性は「常に変化してしまう」もの、として認識されています。人によって態度を変えるのは良くないという人もいますが、私は相手に合わせて対応を変えます。制作もそう。モチーフや素材に合わせて対応し、組み合わせによって生まれる、その時、その組み合わせのベストな状態をめざしています。それに対して愛は、変化を恐れつつも、受け入れる心のような側面もあるかもしれないなと思います。
『Fake_News(ある大統領の亡命)』2025 アクリル、油、キャンバス F40(100×80.3cm)
__創作のインスピレーション源として、日常の中で意識していることは何ですか?
良いものはなるべく本物を体験するようにしています。展示ひとつをとっても、展示物のみならず、空間の使い方も勉強になりますし、美しい景観や建物、パフォーマンスなども、そのスケール感やライブ感を感じることがとても重要だと思っています。
__制作のプロセスで最も大切にしている時間や瞬間はありますか?その理由も聞かせてください。
自分で作っていて楽しいと思える瞬間とか、没頭している時間は大切です。あとはサブテーマという訳ではないのですが、「作品制作を継続できるかどうか」という持続可能性も重要だと思っていて、楽しく制作すること、適度に寝て食べて動くことはその重要なチェックポイントです。楽しくないことが続くのは体に悪いと思っているし、楽しければ次の制作へのモチベーションにもなります。なんといっても、制作していて一番楽しい瞬間は、大抵制作がうまくいっているときだと思うので、制作する上で良い循環が生まれる気がします。
『News01(トランプの逮捕)』2024 油、アクリル、キャンバス F10(45.5x53cm)
__現在の時代背景や社会的な出来事が、制作にどのような影響を与えていますか?
いまの社会で起きていることも、ほとんどは言ってしまえば「関係性」だなとは思うものの、それらがわかりやすいかたちで、私自身、そして私自身の制作に影響を与えているようには感じていません。一方で、フェイクニュースを筆頭に、自分の考えていることを象徴するような出来事も起きていて、当然ですが、リンクする部分はあるなと思います。わたしの小さな制作活動で考えたことがきっかけで、より大きな規模感の世界を自分なりに消化している感じです。
__他者の「経験」を想像しながら作品を制作することはありますか?
私は、「自分の感じている世界からは出られない」、つまり、自身の経験を他人は経験し得ないし、その逆も然り、と考えている節があります。例を挙げると、友人の作家(澤井昌平)が、「それぞれの地獄」というタイトルのシリーズを作っていて、それには深く共感しています。仮に誰かがとてもつらい思いをしていて、それを想像する(同情する)ことはできても、本当の意味での理解は結局できないんじゃないかな。だから想像する意味はない、ということではないと思いますが。いずれにせよ、今のところ他者への想像は、わたしの制作には活かされているとは思っていません。
__長い目で見たとき、フルフォードさんの作品がどのように記憶され、受け取られてほしいと考えていますか?
全部の作品を好きになってもらおうとはそもそも思っていません。でも、いろいろある作品たちの中で、「ジャスミンのあの作品いいよな」と、少しずつでもそれぞれの心に残ってくれたらいいなと思います。本当は「みんな!わたしのありのまま、全てを愛してくれ!」って言いたいところですけど、全部を愛するって不自然なことのような気がしますし、受け取り方や記憶の仕方は自由なはずなので、あまり干渉したくありません。
__3人展「Plastics」では、どのようなコンセプトで展示プランを構成されましたか?
「信じられるものは何か」から派生した、「フェイクニュース」と、「呪い」のふたつをテーマに構成しました。「フェイクニュース」は実際にあったニュースや、私が作ったニュースを基に描いたペインティングと、過去に作った人形を用いた立体作品です。「呪い」は、カリフォルニア大学で行われたある実験内容がきっかけで制作した、参加型の作品です。この実験では、心臓病の患者393人を、192人と201人の2つのグループに分け、192人のグループにだけ毎日、他の人々から祈りを送るというものです。結果として、祈りを送ってもらったグループでは9人の病状が悪化したのに対して、送ってもらわなかったグループでは48人も悪化したそうです。ちょうど私のことをひどく苦しめている人物がいるため、祈りが届くなら、呪いも届くのでは?と思い、制作しました。ぜひご参加ください笑
3人展「Plastics」にて披露されるパフォーマンス
__今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
トライしたいことがたくさんあるのですが、引き続き「信じられるものは何か」をテーマに据えて、考えを深めていきたいです。表現媒体はペインティングに加えて、陶芸、ソフトスカルプチャーももっと作って、空間構成にもトライしてみたいと思っています。いい工房がみつかれば木彫もまたやりたいです。
フルフォード素馨Jasmine Fulford |
「Plastics」
2025年2月21日(金) ~ 3月11日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日2月21日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:2月21日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト手島領、南村杞憂、フルフォード素馨による3人展「Plastics」を開催いたします。「Plastics」では、表面的な印象や偽りの中に潜む本質を提示した3名のアーティストによる作品を展示いたします。