9月6日(金)よりタグボートにて初登場・初個展を開催するアーティスト・市川慧。
市川慧は現在、東京藝術大学美術学部絵画科油絵専攻に在学中の注目作家です。西洋絵画の写実的な技法と日本の絵画に見られる超平面的な表現を融合させ、現代社会の混沌の中で「欠落」を感じながら生きる人々を象徴するモチーフを描いています。tagboat史上最年少で個展開催を飾る市川さんに開催に寄せてお話を伺いました。
市川慧 Kei Ichikawa
2022年 都立総合芸術高等学校卒業
2022年 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻入学
4月 グループ展「而二不二(二二フ二)」Medel Gallary Shu(キュレーション:飯島モトハ)
7月 自主企画グループ展「ROOM206Vol.2-nine fish stories」渋谷ヒカリエ 8/CUBE
9月 個展「Tokyo Planetes」銀座蔦屋書店
2023年 2月 自主企画グループ展「ROOM206展」アーツ千代田3331
12月 グループ展「SHIBUYA STYLE vol.17」渋谷西武 B 館8F 美術画廊
3月 個展「Neo-Futurism Lab」銀座蔦屋書店
2024年 3月 グループ展「ブルーピリオド ×ArtSticker Vol.1」アートかビーフンか白厨
7月アートフェア「URBAN BREAK 2024」Seoul Auction Xより参加 COEX HALL B, ソウル
画面の中に西洋絵画の奥行きのある写実的技法と日本の絵画表現における超平面的な表現を
共存させた、コラージュを用いたミクストメディアによる独自技法など研究・試作中。
混沌とした現代社会の中に存在するどこか欠落したものを抱えて生きる人々の象徴のような
背広姿の AKIO と二次元で描く魔法少女などのキャラクター達。独自の精神世界の概念を投
影したモチーフ達を次元の違うもの同士がクロスオーバーする特異点を舞台に配置し、現実
と虚構が入り混じる世界観を現代の寓意画として表現している。キャンバスという舞台の上
で、映画監督のように彼らを演出するような感覚で制作している。
『Desert Moon』2024年
現在、東京藝術大学美術学部油画専攻に在学中ですが、絵を描き始めたのはいつ頃ですか?きっかけはありますか?
_幼少期は絵を描くことが特別に好きだということはなく、他の様々な遊び道具の中にスケッチブックがあったというくらいの思い出です。その時々で興味のあることをしてきました。中学の時に都立総合芸術高校の存在を知り、美術専門予備校に通い始めた頃からアートに深く興味を持ち始めました。今に繋がる経験や興味はその頃から始まっているかもしれません。
アーティストを志したきっかけはありますか?
_高校の時に卒業制作として150号の油絵を全力で描いた経験だと思います。正直中学までは納得のいかないことでも集団でやらなければいけない行事や授業が多かったのですが、芸術系高校に来て初めて多様性を認められ、個として興味のあることに全力で取り組んでいい、自己表現していいという環境をあたえられました。150号の絵を授業の一環として描かせてくれる機会を与えられ、全力で描き、またそれをSNSで多くの方に見てもらえて反応をいただけたこと、それらを高校時代に経験できたことがきっかけと言っていいと思います。
『羽化不全』2021年 高校の卒業制作
作品制作のテーマと制作する上で大切にしていることやこだわりを教えてください。
_アーティストとして私は自分の時代の目撃者としての視点を持ち、作品を創造し残すことを目指しています。つまり100年後に作品を見た人が、私たちの時代を想像してくれることを願っています。作品の中でしばしばモチーフにしている二次元的な表現については、これらは現代を象徴するものとして描いています。中世の古典絵画が聖書や神話の人物を描いたように、アニメやゲーム、漫画は幼少期から親しんできたものであり、日本を象徴する現代的なものだとして描いています。
これまでに影響を受けたモノやヒトについて教えてください。
_多くの映画など映像作品からは影響を受けています。実際、作品を制作するときは映像作品の1シーンを監督するような気持ちで描いています。高校の時も実は2年生までは映像を専攻していて3年生だけ油画に転専攻しました。映像作品を作る上で必要なコンセプトを深く考える授業が多かったです。表現したいものがあり、そのために設定や表現の必然性を突き詰めて考えたことはよい経験でした。授業で自分では選ばないであろう映画を沢山みせられたことも良かったです。
作品に登場する「昭男(AKIO)」について教えてください。また、AKIOを描かれたきっかけはありますか?市川さんにとってAKIOは作品においてどのような存在なのでしょうか。
_きっかけは高校生時代に登校していた時にいつも目撃していたサラリーマンの群れをみて、自分自身の精神性と彼らの姿がどこかリンクする感覚を覚え、シンパシーを感じ
それらのイメージを具現化したものです。卒業制作に描いたのが最初です。
市川さんの作品からはストーリーを感じますが、作品に登場するAKIOと魔法少女はどのような関わりを持っていますか?
_現実と虚構の曖昧さや、インターネットに溢れた日々におけるアイデンティティの不安定さを感じながら、空虚さを見せずに生きる人々を、スーツを着たAKIOの姿を通して描いています。 アニメキャラクターを思わせる表情で描かれた少女たちは、リアルに描かれたAKIOと対比することで、人間ではない存在感を引き起こすことを意図しています。
御祖父様のAKIOさん撮影中の様子
AKIOは御祖父様がモデルですが、魔法少女たちにモデルはいるのでしょうか?
_特にモデルはいません。私自身や同世代の人たち(主に2000年以降に生まれた人達)の投影という側面はあります。若いというだけで注目されたり、大人達に無責任な期待や責任を背負わされたりする重圧感に打ち勝ちたいという深層心理から魔法少女が大人を見下ろす構図に繋がったかもしれません。
今回の個展では、以前、渋谷ヒカリエで開催された自主企画展「ナイン・フィッシュストーリーズ」に続く作品を描きたいというお話をお伺いしましたが、具体的にどのような作品を展示されるのでしょうか?
_個展では大きめの絵画作品とシルクスクリーンの小作品の2種の作品群の構成で制作しています。絵画作品は様々なシチュエーションのAKIOを描いており、またモチーフや設定は寓意画のように動物が登場したりしています。少し違和感を覚えるようなシュールな設定の情景を描いているので観る人が自由に感じたり想像したりして欲しいと思っています。敢えてアレゴリーのように描かれているモチーフですが、深く読み解くための知識は必要ではなく感覚で感じていただければと思います。シルクスクリーンは以前から技法として試しているものです。
100年前のイタリアで起こった芸術運動、モチーフを連続することで絵画の中に時間やスピードを感じさせる未来派の表現に興味があります。この芸術運動は機械文明やスピード礼賛、 時間の経過と空間を時間の経過をアニメーションのように画面に閉じ込めようとする表現が特徴ですが、そんな未来派にインスピレーションを受けて制作した独自技法のシルクスクリーンの新作です。未来派運動は機械文明の賛美から破壊主義的なもの、戦争賛美するファシズムに突き進んでいったという歴史があります。100年経った今でも戦争はなくならず、また未来派の速度礼賛の側面は、情報が溢れている現代社会を生きる私達、特に自分の興味や利益に直結した情報だけを効率よく得たいという価値観で映画も早送りで鑑賞する私達世代にも通じる感覚のように感じています。
シルクスクリーン作品の制作中の様子
個展の作品を制作するにあたって、特に心がけたポイントや大切にされた点について教えてください。
_私にとって大きな節目となる個展なので、観る人に楽しんで鑑賞していただきたいと思っています。
今後の制作において挑戦したいことや意識したいことはありますか?
_試作研究する時間を大事にしたいです。興味のある技法やテーマを追求する時間をとると発表の機会は
少し先になるかもしれませんが、今は学生でもありますし、そういった落ち着いた時間が大事だと実感しています。
市川慧個展「fish story」
2024年9月6日(金) ~ 9月28日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日9月6日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:9月6日(金)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
展覧会詳細はこちら▼
http://tagboat.co.jp/kei_ichikawa_fish_story/
個展出展作品はこちらからご購入いただけます▼
https://tagboat.com/products/list.php?author_id=1008230
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