奥山鼓太郎は、今年2024年3月に東京藝術大学大学院の修士課程を修了した気鋭のアーティストです。この4月からは同大学院の博士課程に進学し更なる研鑽を積んでいます。
作家は絵画という物体そのものに着目し、「絵画はどのように生まれ、進化してきたのか」という問いに根差した作品を制作。モチーフを的確に捉えて描出する圧倒的な画力を携え、現代の機器を画面に取り入れた独自の構図で鑑賞者を唸らせ、魅了します。
今回は大学院の修了展に出展した作品を1枚取り上げ、その制作についてお話を伺いました。
奥山鼓太郎 KOTARO Okuyama |
Q1. 今回ご紹介いただく作品は先日の東京藝術大学大学院の修了展で展示されていましたね。改めて概要を教えてください。
奥山鼓太郎《display(still life)》2024年、キャンバスに油彩、72.7 x 100cm
修了制作では液晶端末と絵画の関係性への興味をもとに作品をつくっていました。
この作品もその内の一点であり、
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・テレビやパソコンやスマートフォンの様な液晶画面から受容する画像、映像には規格で定まった大きさの上限とか種類があること
・小さな資料と大きなキャンバス
・ピンチアウト/インという液晶端末というメディア特有の身体性と絵画制作の関係
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これらのことを考えながら制作しました。
Q2.「light_source」シリーズでもレモンを描かれていましたが、レモンは奥山さんにとってどのようなモチーフなのでしょうか。
レモンや、あとリンゴなどでモチーフを組むのは、多くの人に共有されている「いわゆる」絵画っぽい、静物っぽいイメージを使いたいという理由からです。
特にこの作品では、いわゆる静物画として想起される様な17世紀オランダなどで描かれた絵画の中に頻出するレモンを念頭にモチーフにしました。皮を剥ききらず机の端から垂らす様に配置したレモンは、画家達がその質感表現の技術を誇示する様に、多くの絵に描かれました。現代の制作の資料としてのデジタル写真は人の目を超える解像度を持っていて、その画像を拡大や縮小する手つきと、かつての画家たちの制作とを重ねて考えてみたりしました。
ピーテル・クラース《静物画》1633年、38 x 53 cm、カッセル、絵画館
図版出展:Wikimedia Commons
Q3. 奥山さんは「絵画という物体をつくる行為」を意識し、「物質性を持たないイメージ」と「絵画となることで物質性を獲得したイメージ」についての考察と実証を重ねられていますね。今回の作品の発端は現代における写真と絵画の関係性への興味であると拝見しましたが、改めてそのコンセプトについてお聞かせください。
写真の発明以降、多くの画家はモチーフを撮影して絵画の制作に用いてきました。その形式もアナログ写真からデジタル写真への移行と共に、印画した写真から液晶画面に表示される画像へと変遷しています。
液晶の中のデジタル画像は、それ自体が光る存在であり、変換される解像度やアナログ写真とは異なる多様な特性を持ちます。その視覚体験は描かれる絵画にはどんな影響が及んでいるのでしょうか。また、画家は写真という平たい表面を見ていながらも、その中の空間に身を置いて実物のモチーフを画家自身の目で見ているように絵を描くことがあります。
画家が制作の過程で何を「見ているのか」、この構造は絵画の鑑賞体験にどのように関わるのだろうか、そんな興味からこの作品は生まれました。
Q4. こちらの作品で使用されている油絵具のメーカーや種類、気に入っている点など、奥山さんのこだわりがありましたら教えてください。
絵具はホルベインやルフランが多めです。なるべく平らな画面、筆致が目立たない塗りにしたいという感覚がありますが、最近はより油絵具の特有の質感や特性を活かした画面作りに興味を持って色々試しています。
愛用の画材たち
Q5. 今回の作品制作に際し、事前に準備されたことなど、おおまかな作業手順についてお聞かせください。
Q2の答えの狙いをもとに構成を考えたので、17世紀オランダの静物画の作例をリサーチしてレモンを配置するのに適する位置を探りました。
制作の経過(左上から右下へ)
Q6. 今回の制作の途中で工夫されたこと、また苦労された点はございますか?
余白を大きくとった構成のアイデアだったので、描いている間は「一枚の絵として成立するだろうか」とずっと不安でした。
Q7. 表現におけるこだわりを教えてください。
見る人の知識とか好奇心にふれる事で、おもしろがってもらえる作品をつくりたいと意識しています。
Q8. 奥山さんはどのようなタイミングで筆を置かれますか?
締め切りとの兼ね合いの場合がかなり多いです…。
Q9. 《display (still life)》はデバイスを手で持っている様子を写した写真を描かれていますが、キャンバスにはあえて余白を残し、そこに一筋の線を引かれていますね。この構成の意図をお伺いさせてください。
この線は、絵の構造を伝えるガイドみたいになるといいと思って配置しました。余白になっている部分に他の果物やモチーフがあり、このキャンバスが一枚の静物画として描かれる時に、その静物が置かれる机の縁になる部分がこの線にあたります。画家はスマートフォンの小さな画像を見ながら、意識は大きなキャンバス全体に及んでいるというような発想です。
描かれた画面内、レモンが置かれている場の縁から延びるように、一筋の線が引かれている
_なるほど、言われてみると延長線上に他の果物や食器があるように見えてきました。描かれているものを超えて想像が広がりますね。
Q10. 今回の作品はどのようなポイントに着目して観てもらいたいですか?
修了展で展示した際、とても多くの人がこの絵をスマートフォンのカメラで撮影してくれました。それらの写真は、さらに一層上に画像化のレイヤーを増やす様にこの絵の構造を変化させてくれていてとても興味深かったです。また、画面内のスマートフォンの向きにつられてなのか、横長の絵なのに縦向きの写真を撮る人が多かったのもおもしろかったです。
Q11. 現在はどちらで制作をされていますか?
上野の大学のアトリエと埼玉の自宅、あとは浅草に大学の友達と動かしているスタジオ兼ギャラリーのスペース「KYOK」があり、それらで制作をしています。
制作の様子
Q12. 以前「『絵画』や『制作』に対して感じたものを形にしているので、作風や技法も変化していく」と語られていました。東京藝術大学の大学院を修了された今、奥山さんの作品はどのような展開を見せていくのでしょうか。今後の展望をお聞かせください。
いま取り組んでいる制作は大学院に進学してからのここ3年で取り組み始めたものですが、作るごとに日々新しい展開や発想が出てきて、この先も続けていける自分のコンセプトというか、制作の視座を見つけることが出来たと感じています。
この春に博士課程に進学したので、より深く研究や実験を経てのアウトプットをしながら、同時に抜けとかふざけも含んだ制作をしていきたいと思います。
今後の制作については、これまでの制作は「いま」絵具で絵を描くこと、具象画を描くこと、を考えてきましたが、同時代性に加えて「ここ」で描くこと、土地性とか土着と油絵具みたいなことも考えていきたいと思ってます。
_ありがとうございました!奥山さんは4月開催の「tagboat Art Fair 2024」に出展予定です。会場にお越しいただき、是非「今」の作家が新たに捉え直す伝統と絵画の姿をご高覧ください。
「tagboat Art Fair 2024」(特設ウェブサイトはこちら)
◎会期
2024年4月26日(金)16:00~20:00 ※26日はご招待のお客様のみご入場いただけます
2024年4月27日(土)11:00~19:00
2024年4月28日(日)11:00~17:00
◎会場
〒105-7501
東京都港区海岸1-7-1 東京ポートシティ竹芝
東京都立産業貿易センター 浜松町館 2F,3F(JR浜松町駅より徒歩5分)
奥山鼓太郎 KOTARO Okuyama |
東京都出身
2021 東京藝術大学 美術学部絵画科油画専攻 卒業
2024 東京藝術大学大学院 美術研究科絵画専攻油画技法・材料分野 修了
現在 同大学院 博士後期課程 在学
個展 / Solo Exhibitions
2022 うしろのうしろ ( REIJINSHA GALLERY/ 東京 )
グループ展 / Group Exhibitions
2024 第72回東京藝術大学 卒業・修了作品展 ( 東京藝術大学/ 東京 )
2023 SHIBUYA STYLE vol.178(西武渋谷 美術画廊・オルタナティブスペース/東京)
境界-border- (藝大アートプラザ/東京)
Art Fair GINZA 2023 tagboat x MITSUKOSHI (銀座三越7F催事場/東京)
NEW WAVE (tagboat /東京)
アラカルト9 (船橋市民ギャラリー/千葉)
tagboat Art Fair (東京都立産業貿易センター浜松町館/東京)
自分の制作は、絵画の構造や描かれる過程をモチーフにしています。
絵画の持つ図像としての側面と物質としての構造、制作の技術や造形言語、歴史。絵画を思考しながら疑問や発想が具現化する様な制作を試みています。